第二話: Shenzhen Incident−7


ごくわずかな時間で44階にエレベーターが到着する前に、伊吹の可視化魔法で44階のエレベーターホールに人がいないことを確認し、到着したところで全員すぐ外に出る。

一度エレベーターホールの案内板を確認するために、近くの柱の前に集まる。このフロアには敵も民間人もいない。エレベーターは開いたままになっている。


「見ての通りだが、このビルは8つの区画に分かれてて、最上部の展望ゾーンを除けばオフィスフロアはゾーン1からゾーン7になってる。概ね14階くらいで一つの区画を構成するわけだな」


黒尾は案内板を示しながらビルの構造を簡単に説明する。
平安国際金融中心ビルは地下1階から9階までは商業区画となっており、デパートと繋がっている。オフィスは11階から始まり、47階までのゾーン1からゾーン3は別の会社が入っている。47階と48階、そして109階から112階はこのビルを建てた保険会社が入る。

清风は52階から63階のゾーン4、65階から78階のゾーン5を本社オフィスとする。


「…おバカ組がいないと、なんで上の方が偉そうなのに、っていう邪魔が入らなくて楽だな」


黒尾がしみじみと言うため、伊吹は少し笑いそうになる。月島はくすくすと笑っていた。確かに、日向あたりがここにいたら、なんでこのビルの主である会社が低層階にいるのか疑問に思っていたことだろう。

案内板からも分かるが、1階から直通するエレベーターがあるのはゾーン3までで、それより上階は一度エレベーターを乗り換えなければならない。展望台のある116階まで直通するものはあるが、それは観光用で途中は止まらないようだ。

職場に行くためにエレベーターを乗り換えるという不便さを考慮すれば、低層階の方が楽なわけである。低層階といっても、日本では虎ノ門の開発が戦争で遅れており、いまだにあべのハルカスが最も高いビルとなっているが、その最上階が60階だ。47階でやっと低層フロアの最高層というのはスケールが違い過ぎる。


「清风の区画にはほかに、ゾーン4だけ止まるエレベーターとゾーン5だけ止まるエレベーターがこの上のスカイロビー1から出てるが、そちらは敵が使っているから無視だ。ここからは階段で行く」


今乗ってきたエレベーターは47階までとなっているが、敵はこの上の45階から47階までに数名が警戒にあたっている。それと会敵しないように非常階段を進み、2フロア飛ばして50階から51階にかけて、ゾーン3とゾーン4の間にあたるスカイロビー1に向かう。

ここともう一つ、ゾーン5と6の間にも81階から82階で吹き抜けのスカイロビー2がある。これらは低層階・中層階・高層階とを分ける役目を持つ吹き抜けのロビーで、それぞれ2フロア分がある。従業員用のラウンジや飲食スペースなどが設けられた場所のようだ。
ゾーン4と5の従業員はスカイロビー1に直通するエレベーターから乗り換え、ゾーン6と7の従業員はスカイロビー2に直通するエレベーターから乗り換えるのだ。
伊吹たちが乗っていたエレベーターはゾーン3直通のため、スカイロビー1まではいかない。だからこそ敵に気付かれずにギリギリまで登れたわけだ。

Silentはエレベーターホールから綺麗な廊下を進み、非常階段にやってくる。超高層ビルの非常階段は必ず分室という小さな部屋を挟んでいる。これは陽圧の分室をメインフロアと非常階段の間に設けることで、火災の煙が分室から先の階段にいかないようにする役割がある。これはどの国も変わらない構造だ。

分室の重たい扉を難なく開いた黒尾に続き、非常階段に入ると、誰もいない煙突のような垂直の空間に出る。足音が反響するため足音を殺して歩き始め、伊吹は透視によって様子を窺う。


「…50階分室前に敵兵なし。意外と敵はまばらですね」


伊吹は声を出さずに済むよう、階段の前を歩く黒尾の背中にくっつくようにして報告する。ただでさえ20センチ近い身長差があるのに、階段の段差分もあって余計に黒尾の顔が遠い。
黒尾は軽く伊吹の肩を叩く。


「了解。伊吹が可愛くてにやける」


いつもニヤニヤしているだろう、と伊吹は内心で思うも、迂闊に声を出すことができないため我慢した。その代わり、迷彩服越しに黒尾の背中をつねってやった。


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