第二話: Shenzhen Incident−8


50階に到着し、非常階段から分室に入る。狭く武骨な部屋から外に出るともうそこは敵兵のいる区画である。
そこへ出る前に、黒尾は全員を見渡す。


「さて、声が出せるのはここが最後なわけだが、どう攻める?」


ここから先は隠密行動のため、声を出して作戦を立てることもできない。この部屋がいったん作戦行動前最後の打ち合わせ場所となる。

黒尾の視線を受けた弧爪は、端末を起動してビルの見取り図を空中にホログラムで投影する。この端末も最新の軍事用品だ。


「52階は清风のメインエントランスで、社員が通るゲートがある。そこに敵もたくさんいるけど、透視した限りでは通れる。伊吹が言ってた通り、敵兵はまばらに散会してるから。ゲートの先から会議室区画で、52階にはビル内最多の300人の人質がいるね」

「人質解放前に重慶政府の目的を探る、って認識なんすけど間違いないっすよね」


伊吹が黒尾に尋ねると、黒尾は頷く。


「人質解放はパリの戦いで伊吹がTGVでやったような、独立外発魔法で敵を一斉に殺す方法だな。問題は人質の位置と敵の数か」

「おれが透視したけど、人質はゾーン4と5、つまり清风にしかいない。伊吹、敵の数はどう?全員に独立外発魔法展開できそう?」

「…ゾーン4と5だけで敵兵は800人ってとこか。高層ビル1棟分ある範囲だから、少し展開に時間かかる。国見、赤葦、分担できるか」

「俺はゾーン半分ならすぐできる。国見は?」

「俺も半分なら。伊吹さん、ゾーン1つ分いけますか」

「当然だろ」

「かぁっくい〜」


二口が茶化すように言ったためその尻を蹴り飛ばす。痛みに呻くのを無視して、人質解放の段取りはできた。伊吹と赤葦、国見で区画を分割し、一斉に敵を倒すことで人質を助け出すのだ。


「研磨、ゾーンの封鎖は?」

「ハッキングでもしないと無理。防災設備なんて手動じゃコントロールできないよ。ていうか、封鎖しても敵がビルごと爆破する可能性だってある、人質を確実に助けるにはビル内の兵士を一掃しないと」

「ま、そりゃそうか」


伊吹はもう一度ビル内の敵兵を透視する。ゾーン4と5に集中しており、あとはスカイロビー2、最上部の112階から116階、そして9階までの商業区画となっている。少し遠いが、上層階はまとめてできる。商業区画は降りるべきだろう。


「俺がゾーン5と、敵がいるスカイロビー2、112階から上の展望フロアの敵を倒す。赤葦はゾーン4の上半分、国見は下半分。そんで、残りの全員は商業区画で一気に掃討してください」

「了解した。じゃあ人質解放の流れはこれでいいから、あとは本題だな」


黒尾が言えば、弧爪はホログラムに浮かぶビルの見取り図を見つめる。そして首を横に振る。


「さすがに検討が付かない。さっき月島が言ってたけど、本社機能があるここには、大企業としての総務機能があるだけで、知的財産や魔法兵器の在庫はここにはないから」

「そこなんだよなぁ」


それは黒尾も理解していたようだ。つまり、Silentには事前情報がなく、この先の小目標のための行動をどうするか決めあぐねているのだ。20以上のフロアはしらみつぶしにするには広すぎる。

伊吹はため息をついてから、あまり取りたくない手段を取ることにした。


「仮定で動くしかねぇっすね。敵の狙いは魔法兵器の技術や在庫だとします。その場所はIMAの監査基準によって秘匿されているため場所を敵は知らないはず。だとすると、まずはその場所を探るべく、たとえば本社の在庫管理部門や輸送部門、あとは人事部門から情報を探る。それでも無理だった場合にはサーバーに直接ハッキングするわけっすよね」

「該当する部署を中心に捜索、敵が何かしている気配がなければサーバールームを見つけ出す、ってわけだな」


黒尾が話を引き継ぎ、伊吹は頷く。
すると、月島がそこで口を開いた。


「いえ、非常時には恐らく一般部門とサーバーは切断されます。四葉工業と同じセキュリティ基準であれば、深圳事変発生時点で、サーバーハッキングしか方法はなかったと思います」

「ツッキー、サーバールームの場所に検討ついたりする?」

「まさか。トップシークレットに決まってます。外見からも分からない扉でしょうから、探すのは骨が折れますね」

「いや、ビルの記録からあたりをつけることはできるよ」


弧爪はそう言って、端末に何かしらのコードを打ち込む。ホログラムは消えて、何やら操作し始めた。


「事前に武田さんから、このビルの防災センターの記録へのアクセス権をもらってたんだよね。さすがに隔壁とか操作するコントロールパネルには接続できないけど、怪しい情報がないか見つけられるようにって。多分このレベルの新しいビルなら、一定の区画ごとに空調の記録があるはず」


何度かタップしてから、今度はひたすらスクロールを始める。膨大な情報を目で追いながら、やがて弧爪は「分かった」と一言言って端末をしまう。


「62階が一番空調の使用時間が長い、っていうかほとんど止まってない。サーバールームは熱が籠るから、こんな大企業のサーバーなら一部屋丸ごと冷房つけ続けると思う。確率論から言えば、62階が一番可能性あるね」

「さっすが〜!」


天童は手を叩いて褒め、黙って見守っていた二口と昼神、赤葦と国見も「おお」と声を出す。それくらい手詰まり感があったのだ。
最後に黒尾は自身の端末で位置を確認してから、分室の扉に向かう。


「62階はゾーン4の最上部くらいだな。よし、じゃあまずはスカイロビー1を抜けて階段で一気に62階まで行こうか」


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