第二話: Shenzhen Incident−9


分室を出た一同は、スカイロビーを抜けて52階に入った。想定通り、敵は分散しており、音さえ立てなければ普通に通ることができる。あちこちに人質となった人々が集められているのを見ながら、通常階段から上階へとどんどん上がっていく。廊下の先にある窓の外の景色が霞んでいるのは、雲が立ち込めておりこの中層階あたりから雲に隠れてしまっているからだろう。もう少し上に行けば完全に雲に隠れ、さらに上に行けば晴れているかもしれない。

10フロア分を上がるのはそれなりに疲れるものだが、さすがに軍人である以上、動けなくなるようなことなどあるはずもなく、息も切らさず62階に辿り着いた。

ここまで来れば透視によってサーバールームが特定できる。

先ほどそれをしなかったのは、サーバーの形は今の時代かなりバラバラであること、そもそも可視化魔法による透視で効果があるのは探したいものが明瞭であるときで、不特定の形態をしているものを探すのには向いていないことが理由である。

フロアが分かり、ここのどこかにあると分かれば、部屋の構造から推測ができる。

伊吹はオシャレな休憩スペースや軽食スタンドのあるスペースの先を指さした。窓の外は霞んでいるが、近くのビルから噴き出す黒煙が少し垣間見え、散乱した書類やてんでばらばらの椅子、こぼれたままのコーヒーなどから混乱が伺えた。

倒れた観葉植物を乗り越えて先に進んでいくと、兵士が二人立っている扉があり、その頑丈そうな扉は破壊されて内側に倒れこんでいた。恐らくあの扉の先がサーバールームだ。
さすがに距離が近すぎるため、伊吹は二人の頭に光電子魔法を打ち込む。音もなくレーザーが二人の頭を一瞬で貫き、兵士は倒れた。

すぐさま黒尾が先陣を切って中に入り、あとに続く。いくつかセキュリティがあったようだが、すべて破壊されていた。見立て通り、敵の狙いはサーバールームだったようだ。
破られたセキュリティドアをいくつか抜けてサーバールームに入ると、いくつものサーバーが唸り声をあげて棚に収まっているのが見えた。その中の一つに、PCが接続されている。何かが進行しているようだ。


「月島、分かるか」


誰もいないことから伊吹が声を出すと、月島もそれを理解して頷く。月島を先に通して見てもらうと、月島は「最悪、」と呟いた。


「データの転送です。ものすごい情報量なんで、多分、魔法技術そのものでしょうね。このサーバーから、研究所に接続して情報を抜き取ってるんです」

「研究所の場所は分かるか?もしくは魔法兵器の在庫」

「…場所は分からないですけど、転送先は香港…ですかね」

「見てみる」


弧爪はPCを少し操作して特定を始める。それを後ろで見ていると、比較的すぐに弧爪は操作をやめた。


「……これ、香港のマフィアに送ってるんだと思う。大義集團って知らない?」


伊吹は聞いたことがあるが、ほかはピンと来ていない。説明する必要があるか、と伊吹が弧爪の急かすような視線に応じて話し始める。


「香港を本拠地にするマフィアだ。比較的新興のグループだな。重慶政府のバックについてるんだったら、ここまで大規模になるのも頷ける。もともと清风も香港企業だし、多分、大義集團は清风の魔法兵器の在庫保管場所も知ってんだろ。本社の混乱に乗じて在庫も奪う算段だったとすれば、保管場所も香港にある可能性が出て来る」


これだけ説明すれば理解できるのがこの分隊のいいところだ。二口はヒュウと口笛を吹く。


「重慶は兵士の物量、マフィアは情報で協力してるってことか。そんで、魔法兵器とその情報によって重慶政府を強くする代わりに自分たちも影響力を増すわけだ。映画かよ」

「すぐ報告しねぇとな。にしても、思ったより面倒そうだ」


黒尾もさすがに口元を引き攣らせる。二口の言う通り、まるで映画の世界だ。香港マフィアの力を借りた重慶政府は、思っていたよりもかなり手ごわい相手に成り得るのである。
秩序が崩壊したこの混沌とした大陸において、虎視眈々と様々な組織が次の覇権を狙っているのだ。何千年と繰り返されてきた、この国の歴史らしい一幕なのかもしれない。


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