第三話: the Monster from Tikrit−1


第三話: the Monster from Tikrit(ティクリートの怪物)




実験を兼ねた魔法の試し打ちの時間の合間に、質素な食事が提供された。餓死させるつもりはないらしい。正直、脂っこくてまずい缶詰と乾パンは食べる気力の沸くものではなかったが、軍人勢がコンクリートの床に胡坐をかいて座って黙々と食べているのを見て無理やり押し込んだ。

その間に、伊吹はこの短い間に見たことを考えていた。

魔法、生み出した本人たちすらも分かっていないこの謎の力は、ある程度種類が決まっている。例えば牛島は、衝撃波を放つ力と任意の物体を破砕する力を使うことができるようだった。一方で及川は衝撃波のほかに、レーザー銃のような光線を放つことができる。この光線は牛島には使えないが、及川は衝撃波による外部からの力ではなく、内部から物体を粉々にする力はなかった。牛島は外からも中からも物体を破壊できる。

恐らくこの差が、個人差に基づく魔法の種類だ。

木兎は破砕、溝口は水や氷を出現させ、烏養は炎を出せる。直井は衝撃波と電気を生みだす力があった。

そして伊吹は、今試した限りでは、爆発を起こし、風を纏い、電気を発生させられた。


「3種類使えるのは今のところ伊吹だけだね」


ちょうど同じことを考えていたらしい及川がそう言ったため、伊吹は頷く。


「牛島さんと木兎さんの破砕、俺の爆発は、魔法事象の発生地点が自分から離れてます。つまり、遠隔で発生させることが可能であるかもしれねぇってことっすよね」

「確かにね。それに、烏養さんの炎も伊吹の爆発も事象そのものは同じ燃焼だ、程度の違いによってレベルっていうか、差がありそう」


軍人とはいえ及川も頭が切れる。同種の魔法でも微妙な差があり、それが体系化の糸口になると判断していた。


「にしても、伊吹全然疲れてねーのな!」


すると、木兎が意外そうに言いながら笑った。がつがつと缶詰と乾パンをかきこんでいた。


「まぁ…疲れてねぇし、腹も減ってねぇかも…?」

「魔力が消費されてないんだな」


烏養は感心する。もうすでに「魔力」などという異常な単語にも慣れているようだった。

烏養の言う通り、伊吹はまったく疲れていない。魔法を何度も使用したが、特に疲労感などはなく、繰り返された実験による体のだるさや鈍い痛みが残る以外に体に変化はなかった。
それに対して他のメンバーはそれなりに疲労を感じているらしく、体力が無尽蔵にありそうな木兎や牛島ですらだるそうにしていた。


「さて…今こうして自由な俺たちだが、恐らくもうそうはいかねぇだろうな」


全員が一通り食べ終わったところで、溝口がそう切り出した。見張りの男たちは当然日本語が分からないため、公然とこんなことを言える。

いよいよ脱出の話だと理解した全員は、バレない程度に気を引き締める。


「ああ。今日にでも、ここを脱出する」


それに続いて烏養が頷いた。ここでは烏養が指揮権を持つ。いつまでこうして自由でいられるかわからず、最悪の場合洗脳が今日にでもかけられてしまう恐れがあった。
烏養は言葉を続ける。


「いくら魔法っつっても、回復役がいるわけじゃない。全員が攻撃要員だ。となると、相手の銃撃へのリスクにはこちらからの攻撃魔法で対応するしかねえ」

「目には目を、矛には矛か」


烏養の親友だという直井はすぐに烏養の意図を理解した。他のメンバーも、その言葉で、銃弾などを衝撃波で吹き飛ばすようなやり方しかないと分かる。
及川は少し手を顎に当てて考えたあと、口を開いた。


「魔法は安定しない。不慮の事態になるのは避けたいから、まずは見張りを襲って銃を奪い、銃撃戦メインで施設内を地上へ向かって、相手の攻撃に対しての防御としての衝撃波をウシワカと直井さんに出してもらうってのでどう?」

「そうだな、それがいい」


烏養が頷くと、及川は立ち上がる。気づいた木兎、牛島も合わせて立ち上がった。伊吹はまさかと思い、持っていた缶詰を床に置いて3人を見上げる。


「まさか…」

「いつやるの?…今でしょ」


14/293
prev next
back
表紙へ戻る