第三話: the Monster from Tikrit−2


「伊吹は俺たちの後ろからなるべく出ないように」

「…、あんたらがそう判断すんなら従いますけど…」

「大丈夫だ、問題ない」

「そうそう!ぜってー守るからな!」


及川に促され、伊吹も立ち上がる。すかさず牛島と木兎が挟むように立ち、さらに烏養、溝口、直井も囲む。いきなり立ち上がった一同に、男たちが銃を向けたが、遅かった。

及川が衝撃波を放ち、男たちは全員吹き飛ばされて壁に激突し沈黙。散らばった銃を回収し、及川と烏養を先頭に一気に走り出した。

この思い切りの良さ、本当に戦争を知らない日本の軍隊か、と思わずにはいられない。通常陸上戦力で言えば世界第4位の実力を保有していたのは、確かに名前がまだ自衛隊のときだった。「軍」に昇格したことがここまで意識を変えるものかと伊吹は少しうすら寒いような気さえした。


一同は廊下に飛び出すと、銃を構えて走る。伊吹はその間で庇われながら進んだ。足を引っ張るだけなので黙っているが、本当はこの魔法とやらを使って援護したい。しかし、体はいまだ鈍い痛みに覆われていた。実験の後遺症は決して引いていなかった。


「後方クリア」

「警報が鳴らないのは、そういう仕様か?」

「前方より接近音」

「俺が殺ーす!」


短く端的な会話が続き、それぞれがそれぞれの役割を担っている。訓練されていなければ、打ち合わせもなしにこれほどの組織だった動きはできない。PKOに参加できるのはまさにエリートであるが、彼らの実力の高さを思い知る。

及川と木兎がアサルトライフルを発砲する。軽い音は思ったほど大きくないが、ひどく乾いていた。その音とともに、前方の廊下の角から現れた男たちが床に倒れ伏し、血しぶきが壁に飛び散った。

廊下を進み、一度階段を上ったところで、ぶわっと全身の毛が逆立つような悪寒が走った。階段を出てすぐ、左手の廊下の先からだ。それが魔法だと直感した伊吹は、及川たちが気付いていないため、隣にいた牛島をどけて廊下の先へ爆発を起こした。咄嗟に使ったにしては綺麗にすべてのエネルギーが前方へと爆風となって置換されていた。


「伊吹!?」

「魔法使いです、」

「伊吹ありがと、下がってて!」


及川はすぐに伊吹と牛島の前に出ると、爆風で見えない廊下の先に向かって光線を打ち出した。爆風は吹き飛ばされ、廊下の先から悲鳴が遠く聞こえた。廊下は爆風だけにしてはひどく損壊しており、特に伊吹たちから30メートルほど離れた場所は穴が開いていた。


「向こうの衝撃波と伊吹の爆風が相殺されたんだろう。助かった」


冷静に牛島が状況を見定め、及川は廊下の先にライフルのスコープを合わせて確認を終える。


「全員クリアだね。次の階段はあの先だ」

「なあ〜、てかさ〜、上、全部吹っ飛ばせばよくね?」


すると木兎がそんなことを言ってきた。一気に地上まで穴を開けてしまえということだ。確かに、廊下の穴を見ればそこそこ薄いことが分かる。しかしここから上にどれだけ構造物があるかも分からないし、そもそもここが軍事基地であった場合には迂闊に地上に出ることは危険だ。恐らくそれは、決して素人の考えであっても間違いではなかったはずだが、伊吹の考えとは裏腹に、及川は「やっぱり〜?ぼっくん分かってるぅ」と抜かした。


「俺と及川、木兎の魔法で十分だろう」


牛島まで乗り気だ。それはさすがに、と烏養たちを見やるが、烏養も溝口も直井も頷いていた。


「どうせこの人数じゃ隠れて行動することもできないし、どうしようもない。援軍が来る前に抜け出すぞ」


烏養が伊吹の視線の意図に気付いてそう説明したが、説明になっていない。纏わるリスクは、このメンバーであれば問題ないということか。伊吹は文民だ、こうなれば何も言い返せない。シビリアンコントロールはもっと大きなレベルの話でしかなく、戦場では兵士以上に偉い立場の人間はいないのだ。


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