第二話: Shenzhen Incident−12
CEOがいるのなら、少しは情報の確度を高めることができるかもしれない。伊吹は無線をSilentに合わせる。
「こちら朝倉、天童さん取れますか」
『はいよ〜』
「今どこにいます?」
『3階の商業区画だヨ〜』
「地下1階から116階展望フロア行きのエレベーターがあるんで、116階まで上がってきてください」
『ん〜、りょーかい』
緩い返事を聞いてから、伊吹はCEOの男性を肩で支えてエレベーターに向かう。
「百沢さん、いったん116階まで来てください。そっから助けます」
「……はい」
まずエレベーターで115階まで下りてから、日本食レストランの入り口あたりで上に向けて破砕魔法を放つ。天井の一部が崩れ穴が開き、116階に繋がる。今度はその穴に向けて、百沢とCEOを風気魔法で浮かせる。
「う、わっ」
「じっとしててください」
驚くのも無理はない。しかし一方で、百沢は伊吹の破砕魔法には驚いていなかった。単に体が浮いたことだけに驚いており、魔法そのものに対する驚きが見られない。やはり魔法科学の会社として名を馳せる清风のエンジニアだけある。
116階展望フロアに着くと、同じようにガラスの壁が周囲を囲う。ここは中央部にエレベーターや売店などがあり、反対側を見ることはできない。
わざわざ115階に降りたのは、117階から穴を開けると気圧変化が116階にも及んでしまうためだ。いたずらに風を受けたくはない。また、先ほど伊吹が115階行きのエレベーターを破壊したため、もはや直通するのは116階行きの観光用だけだった。
少しして、エレベーターが到着した。一応警戒しつつ扉が開くのを見ていると、天童が躍り出てくる。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!天童さん着!弾!」
「あ、うす。ども」
「うっす!反応うっすいな!」
ケラケラと笑う天童に百沢は引いている。伊吹は天童に対してCEOを示した。
「この人は清风のCEOらしいっす。起こして魔法兵器の在庫場所を洗脳で特定してくれませんか」
「おっけ〜。無理やり起こしていい?」
「あ、俺がやります」
バチッと強い静電気によってCEOを起こすと、CEOは目を開いて荒い呼吸になる。その瞳に恐怖が浮かぶ直前、天童は「你好」と一言言った。
その瞬間、CEOの瞳はとろんとして意識が曖昧になる。起きているが、反応を示さない。
天童の洗脳魔法は程度を決められる。自我を保ちつつ、記憶や価値観、思想をコントロールする極めて高度なものから、人形のように意識を混濁とさせる程度まで様々だ。
発動条件は、天童が魔力を声に乗せて呼びかけること、そして対象が認識できる言語であることだ。対象が魔力の乗った天童の言葉を理解した瞬間に洗脳にかかるが、天童の魔力は指向性を持っているため、狙った人物にしかかからない。まさに、イメージ通りの洗脳というやつだ。
「Point the location of the stock of magic weapon made by Qing Feng.(清风の魔法兵器の在庫の場所を示せ)」
天童は手元端末に地図を表示してCEOに向ける。CEOは地図を見て、そして香港北西部の元朗区の沿岸を指さした。
「謝謝、Good night.」
そして天童がそう言った瞬間、再びCEOは気を失った。眠りに落ちたのだ。
「ありがとうございます。下の状況は?」
「ゾーン4と5はクリア。商業区画もつつがなく進んでるヨ。ただ、なーんか兵士が戦わずに福田駅の方に向かってるんだよね〜」
「は…?」
それはどういうことか、と聞きなおそうとしたところへ、オープン無線が入ってきた。焦った武田の声だ。
『こちら司令部、重慶政府軍が突如として福田駅より高速鉄道で香港に向かい始めました。香港軍事侵攻の可能性があります。Silentの皆さんは迷彩魔法で高速鉄道に乗って香港入りし敵との戦闘を開始してください。すぐに破壊工作分隊Titanを編成するので、Titan到着後はMidnightに再編して大義集團を追います』
「朝倉から司令部、清风CEOより魔法兵器の在庫の場所を特定。座標を天童さんが送ります。先ほどの報告通り、重慶政府の裏には大義集團がついてるんで、兵器は香港の大義の拠点に集積される可能性があります」
『司令部より、了解。香港市警に依頼します。Silentは福田駅へ』
「了解」