第二話: Shenzhen Incident−13
行動の目処は立った。あとは伊吹たちも福田駅へと向かい、高速鉄道に相乗りして中から重慶政府軍を叩く。
すると、百沢が無線を聞いていたためか口を開いた。
「大義集團は、深圳を戦略核兵器クラスの魔法兵器で爆破するつもりでした」
「は…?」
「大戦中、清风が旧政権の指示で秘密裏に製造した兵器です。数は少ないですが、そのうちの一つを大義集團は手にしていて、それによって深圳を壊滅させ、重慶政府と協力関係にあったことを隠すべく重慶政府軍ごと深圳を消すという作戦です」
「なんでわざわざ…」
「民主化した以上、廃墟と化した香港を改めて金融都市にする必要はなく、特別市にはなったものの、政府の最優先復興地区はこの辺りでは深圳だけでした。金融ハブを深圳に移すつもりだったんです。大義集團は香港の都市としての影響力の低下が自分たちのビジネスに悪影響だとして、重慶政府を唆して深圳を制圧するこの作戦を開始しました」
百沢が淡々と語る大義集團の目論見は、確かに理解できた。大戦で香港の金融ハブ機能は失われ、民主化・自由化した中国ではもはや香港にこだわる必要はなく、被害の小さい深圳に金融ハブを移そうとしていた。
大義集團は、重慶政府を使って、清风からの兵器収奪による実力向上、そして重慶政府ごと深圳を吹き飛ばして証拠隠滅と深圳の破壊を企てた。魔法兵器によってマフィアとしての実力を高めつつ、復興対象を香港とすることでかつての影響力を取り戻そうとしていたということだ。
「117階では、大義集團の幹部が重慶政府のトップを殺害しようとしましたが、大義の内紛か、幹部は殺害されて大義の一部は重慶政府につきました。こうして、重慶政府のトップは報復として香港侵攻を開始して、深圳は爆破を免れた形です」
「なるほどな。重慶政府と大義で仲間割れっつーことか…情報ありがとうございます」
やたら詳しく話してくれた百沢に対して、天童は眉を上げてじとりと見つめる。
「ずいぶん詳しいんだネ〜?」
「…人質として上で捕まってる間、聞いていただけです」
「ふーん?なんで上で捕まってたの?あのレベルの店、一介のエンジニアが営業時間中に行くところじゃないでしょ」
「っそれは…」
「本当はさァ、重慶政府側について清风からの情報流出をサポートしてたんじゃねェの〜?」
天童は百沢を疑っているようだ。確かに、戦後すぐに日本人を中国企業が重役に据えるとは思わないし、百沢はそんな年齢には見えない。なぜCEOと同じ場所で人質になっていたのか。そもそも、なぜ重慶政府のトップと裏切った大義のメンバーがヘリで香港に向かった際に、百沢はここに残ったのだろうか。
「普通ならこの状況、口封じで殺されそうなところだよねェ?こうやって情報喋っちゃうし。な〜んで助かったわけ?」
「お、俺にもそんなこと、分かるわけ、」
「もしお前が重慶政府側の人間だったとして。清风から情報を流す役割をしてから、俺たちに情報を流すことになってたんじゃない?お前の話を聞けば俺たちは、当然、大義を潰しに行くからネ。大義を倒す手間が省けるし、その隙に魔法兵器も奪えるかもしんないし?」
天童の言っていることは完全に憶測だが、かなり筋は通っている。辻褄が合うし、不自然な様子からしても分かる。だが、伊吹は正直もうどうてもよかった。
「…天童さん、行きましょう。何にせよ、今一番重要なことは、香港で無関係の市民が殺される恐れが高いってことっすから。衝突を回避しねぇと」
「じゃあこいつ殺してく?」
「ッ!」
びくりと震えた百沢をなだめるように、伊吹は立ち上がってその頭をぽん、と撫でた。身長差が大きすぎて、座った百沢に対して伊吹は立たなければ頭に手を伸ばすのもままらない。
「戦意のない兵士をいたずらに殺すことは戦時陸戦規程に反します。それに、こいつがクロって決まったわけじゃねえっすよ」
「そうだけどさァ」
「何にせよ、このビルからの脱出くらいはさせてやるべきです。敵だろうと味方だろうと、百沢は百沢だ、それだけで、何者もこいつの生きる権利を侵害することはできない」
どんな立場であっても、伊吹たちに害を為そうとしているわけではない以上、百沢を守るべきだ。それは百沢が誰であるかは関係なく、ただそこにいるだけで、生きる権利を持つのだ。
「…伊吹は優しいねェ」
「そっすか?」
少し呆れたようにしつつも、天童は苦笑して立ち上がる。もう百沢への敵意はない。
「伊吹のそういうとこ、若利君は好きになったんだネ」
「天童さんは好きじゃねぇんすか」
「もォ〜」
少し煽るように言ってやれば、天童は少し顔を赤くして伊吹の背中を叩いた。警戒していた天童の険悪な雰囲気は鳴りを潜め、百沢も少し安堵している。
とにもかくにも、まずは香港へ向かう。難しい話はそれからだ。