第三話: Demon City of the Orient−3


Midnightは及川を隊長とし、伊吹を副隊長とする編成だ。少人数で効果的かつ精密な攻撃行動を行うための編成であり、他に影山、瀬見、赤葦、昼神、二口、夜久、侑が加わっている。伊吹と赤葦、昼神、二口の4人はSilentから引き続きの少数行動となる。

地下3階に集合したMidnightは及川を先頭に、地下1階からそのまま地下通路を進んで地下鉄柯士甸(オースティン)駅へと向かった。挨拶も何もなく、「行くよ」とだけ言った及川の後ろを走っている状況である。まだ通路には怯えた表情の市民が壁際に座り込んだり、スマホで電話をしたりと混乱する人々が残っている。その中を走っていくと、人々は一瞬ギョッとするものの、国防軍と分かり安心したように道を開けてくれた。急いでいるのは見た目に分かるだろう。
走りながら、後ろから侑が及川に声をかける。


「及川さーん、こんまま地下鉄走ってくんです〜?」

「まさか!A出口からやっちゃんが車用意してくれてるよ」

「やっちゃんありがとぉ〜」

『へっ!?なんでしょう!?』

『こちら司令部、宮侑、仁花ちゃんを困らせないで』


わざわざ無線で礼を言った侑に焦る谷地。それを、凛とした声が窘めた。清水だろう。侑は懲りた様子もなく「さーせーん」と返していた。全体オープンだったため、恐らく北に怒られるはずだ。それを理解している周りのメンバーは全員、内心で「バカめ…」と思っている。


そうしてA出口から地上に出ると、すぐ目の前にSIA-88が止まっていた。相変わらず真っ黒な車に、急いで全員乗り込んでいき、運転席には及川が座る。

そこに谷地が改めて無線を入れた。


『こちら司令部、これよりMidnightが乗ったSIA-88が広東通りを南へ向かいます。付近に展開する小隊は通りの車を排除し民間人を退避させてください』

「こちら及川、アルマーニがあるあたりからは九龍公園通りに分岐せずそのまま広東通りに入ってくから〜」

『こちら岩泉、九龍公園沿いの区間は俺がやる。分岐後は誰か任せる』

『こちら山本、そっから海までは”Cat”でやっておきます』

「岩ちゃん山ちゃんお願いね〜」

『死ね』

『ええ…了解っス』


事前に走行できるよう谷地が通りの確保を依頼すれば、すぐに岩泉と山本が応じた。いつも通りの応酬が無線で繰り広げられる頃には、すでに及川は車を発進させてから駅ビルを右折し、広東通りに入っていた。片側3車線から5車線ほどになる広い通りだ。

そもそも香港は、南に向かって突きだす九龍半島と、半島の南に浮かぶ香港島、その西に浮かぶランタオ島、そして小さな島々からなる。九龍とは、日本語ではクーロンと発音することが多いがこれは正しくなく、中国語ではジウロン、広東語ではガウロン、英語ではカウルーンと読む。
九龍半島と香港島は僅かにしか離れておらず、その間の海をビクトリア湾、もしくはビクトリアハーバーと呼ぶ。香港の中心地はこのビクトリア湾に面した九龍半島南端部と、香港島の北部である。
百万ドルの夜景は香港島のビクトリアピークという山から見下ろす香港島北部地域の街並みのことだ。この辺りを中環(セントラル)といい、金融都市としての香港の心臓である金融街となっていた。中環の東は灣仔(ワンチャイ)といい、どちらかといえば下町風情を残す。
九龍半島南端の地域は無数のネオン看板で知られる尖沙咀や油麻地(ヤウマティ)といった繁華街で、この辺りを特に九龍と言うこともある。香港らしい景色と言えるだろう。

これから、そんな九龍の西部、半島の南西部にある西九龍駅から、南下してビクトリア湾へと向かう。

両側の高層ビルや香港らしい雑多な壁面のマンションを横目に見ながら進むと、すぐに渋滞していたのであろう車の列が見えた。市街地はあちこちで銃声と悲鳴、爆発音が響いており、運転手が逃げ出したことによって渋滞の列は完全に止まっていた。

その正面に岩泉が立っている。岩泉は衝撃魔法を展開すると、広東通りを埋める車をすべて轟音とともに吹き飛ばした。市民は出てきておらず、どうやらこの通りの上は避難が終わっているらしい。他の”Leaf”の面々が通りへ逃げることを食い止めていることだろう。

岩泉の横を通り抜けて車は何もなくなった広東通りを快調に飛ばす。しかしそこに、岩泉から無線が入った。


『あ、やべ。わりぃ及川、吹き飛ばしたあとのこと考えてなかったわ』

「え……うっわ、やば!!」


その次の瞬間、すぐ横に軽自動車が落下し、大破した。車体はひしゃげてガラスが飛び散る。吹き飛ばされた車たちが、通りに向かって雨のように落ちてきていた。


「岩ちゃんのバカーーー!!!」

「あっはっは!おもろ〜!!」

「やべ〜岩泉さんウケる!」

「いや笑ってる場合か!」


堪らず叫んだ及川に、最後列で侑と二口が爆笑し、二人の間にいる瀬見はツッコミを入れる。助手席の伊吹は、次々に落ちてくる車を必死に避ける及川のハンドルさばきに感心していた。


「阿鼻叫喚…」

「…?赤葦さん難しい言葉使うんスね」

「分かってねーだろ」


騒がしい及川と侑、二口、瀬見に対して、四人がけの真ん中列の助手席後ろに座る赤葦の冷静な声が落ちる。隣席にいる影山は分かっておらず、赤葦は何か言おうとしてやめた。諦めていたという方が正しい。影山の隣に座る夜久も呆れていた。運転席の後ろには昼神がいるが、窓を開けて空を見上げていた。
落ちてくる中には火災を起こす車もあるし、観光バスやタンクローリーまで落ちてくるのが見える。だがそれらはすべて、突然それぞれの車の真下に現れた黒い板によって地上に落ちることはなく、その板の上に落ちて爆発する。


「ちょ、昼神君もにろちゃんもなんで早くそれしてくれなかったの?!」

「及川さんの運転テクが見たくて」

「おもしれーから以外にあるわけなくないっスか?」

「昼神は心にもねぇこと言うな!二口はもう少し隠せ!」


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