第三話: Demon City of the Orient−5
中西區中環、香港駅に面したフェリーターミナルに車は到着した。
中環七號渡輪と名前が書かれた埠頭に車を止めると、全員車を降りる。とんでもない目に遭った、とビクトリア湾を振り返ると、尖沙咀の方からは黒煙がいくつも上がっていた。ここまでうっすらと銃声や爆音、爆発にともなう車の防犯アラートが聞こえてくる。
「強行軍とはこのことだね」
「ほんとそれな…」
赤葦が達観したように言うため、伊吹はため息交じりに頷いた。突撃要員とはいえ、ここまで強行突破することもそうそうないだろうと思う。
「いやぁ、初めての編成にしてはいいチームプレーだったんじゃない?」
一方の及川はそう抜かし、二口に軽く蹴られていた。結局、ここまでの突破は二口と昼神なしにはできなかっただろう。
「ごり押しはTitanの仕事だと思ってました。俺らもやれるんスね」
「魔法にでかさは関係ねーしな」
唯一の二次入隊組である影山が感心したようにしつつも抑揚なくそう言うと、夜久はTitanという名称にむすっとする。「夜久さん入ったら名前変えないとですね」と昼神が何気なく言ったため、夜久は容赦なく昼神に蹴りを入れた。星海より強かったようで、さすがに呻いていた。なんだかんだ星海は優しいのだな、と伊吹は漠然と思った。
破壊活動分隊であるTitanは牛島を隊長とし、副隊長は青根、そして月島、尾長、白馬、金田一、黄金川、リエーフ、アランと各小隊の攻撃特化型の編成となっている。平均身長191センチ以上という驚異の巨人集団である。今は西九龍駅とのその周辺での掃討作戦を行っている。ひときわ激しく黒煙が噴出しているのが、Titanの活動地区だろう。
話が聞こえていたらしい及川はこちらを振り返る。背後には、廃墟と化したターミナルと、超高層ビルである国際金融センタービルが壁面のガラスも割れて中腹が抉れた状態で聳えていた。
「Titanは精密な攻撃をしないごり押し。でも俺たちは最も効率的に、合理的に、そしてスマートにごり押すのが仕事だよ」
「ベースの倫理がゴリラなんよなぁ」
「パワーワードすぎない?」
侑の言葉に赤葦が冷静に返す。実際、及川の戦闘スタイルは丁寧なごり押しだ。非常に精緻な攻撃ではあるが、やり方は大胆だった。ティクリートの地下施設を脱出するときも、地上まですべて吹き飛ばすことを提案したような思考回路なのだ、不思議ではない。
「さて、冗談はこれくらいにして」
「え、冗談だったんスか」
「冗談だよバカたれ」
頓珍漢な影山をぴしゃりと及川は跳ね除け、背後に広がる廃墟のビル群に視線を戻す。
「かおりちゃんと武ちゃんに調べてもらったけど、大義の本拠地の正確な場所は正直分からない。大戦中、香港は旧政権の空爆が3度あって、特にこの四號幹線沿いに広がる金融街は壊滅的な被害を受けた。今はほとんどが制限区域に指定されてる」
及川が示したフェリーターミナルには、黄色と黒の警告マークがついた規制線が張り巡らされている。「KEEP OUT 禁區」と書かれた赤い文字の看板も多く貼り付けられていた。
「そして廃墟のゴーストタウンとなった中環は、大義集團をはじめ香港や大陸のマフィア、難民、失業者、浮浪者、ごろつき、なんでもござれの犯罪の温床、文字通りの黒社会となったわけだ。どこもかしこも怪しいことに変わりはない」
日本では裏社会というが、中華圏では黒社会という言い方をする。マフィアだけでなく、大戦で家や職を失った人々もここにおり、薬や酒に溺れている。海を渡った尖沙咀や九龍エリアから連れ去られ、中環で遺体で発見されることもよくあるそうだ。廃墟の高層ビル街を立て直すことはできないため、すべて爆破して一から建設しなおさなければならない。