第三話: Demon City of the Orient−6


及川は真剣な表情になって伊吹、赤葦、侑と順番に見つめる。


「つまり、伊吹、赤葦君、ツムツムの透視にかかってる」

「あ、もう見つけました」

「いや赤葦君仕事はやッ!!」


どうやら赤葦はすでに透視を始めていたらしい。さすが、奔放な木兎の手綱を握っていただけある。先回りするということに関してはやはり行動が早いし、だからこそこの編成に加わっているのだろう。迷彩魔法や透視もできるため、赤葦は変な言い方をすれば極めて使い勝手がよい兵士だった。


「そこの国際金融センターの後ろにある、ガラス張りのビルです、こちらに曲線状の壁面を向けてるやつです」

交易廣場第二座(Two Exchange Square)だね。金融センターの裏手までペデストリアンデッキを歩いて行って、そっから、突っ込もうか」


これが文字通りの言葉であることは明らかだ。しかし赤葦は、目を閉じて透視をしながら「待ってください」と止める。硬質な声に、全員緊張感を高めた。イレギュラーだ。


「……本拠地はありました、けど…全員、死んでます」

「は……?」


思ってもみなかった事実に、誰のものとも分からない驚きの声が落ちる。伊吹は深圳でのことを思い出す。平安国際金融中心ビルから、重慶政府と裏切った大義の一部がヘリで先行して香港に向かったことは知っていた。まさか、直接本拠地を叩いたのか。

そこで、伊吹は重大な事実を確認していなかったことを思い出した。


「ッ、魔法使いがいんのか…!!」


そう、あのとき伊吹は、魔力を検知して117階まで上がったのだ。それなのに、重慶政府のトップを逃がしたという事実、そして百沢とCEOという民間人の存在、さらに百沢から語られた大義と重慶政府の衝突に気を取られ過ぎていた。

あのとき深圳から香港に向かったヘリには、恐らく魔力を放った魔法科がいた。一人でも魔法使いがいたのなら、ただの武装した民間人に過ぎないマフィアを全滅させることなど容易い。それならば、重慶政府のトップはどこへ向かったのか。


「…俺が一人で見てきます、及川さんたちはここにいてください」

「……分かった、任せる」


及川は一人合点した伊吹に聞きたそうにしていたが、早く行かせることを選んだ。そういう判断の合理性はさすがだと感じる。そして及川がそう判断したことを信頼し、他のメンバーも伊吹に尋ねてくることはなかった。

伊吹はすぐに風気魔法で上空100メートルほどまで飛びあがると、まっすぐ国際金融センターの方へと飛び、香港最大の超高層ビルを回り込んで交易廣場のビルを視界に収めた。主観透視をすれば、たくさんのスーツ姿の男たちが倒れる部屋を見つけた。火災の跡が残る上階ではなく、中層階あたりだ。

伊吹は高度を下げながらそちらへ向かい、そして該当する部屋の窓を衝撃波で砕き散らした。鋭い音とともにガラスが割れて床に散らばり、その部屋に突入する。


中は応接室になっており、上質なソファーや中国らしい書、生け花、額縁などが飾られているが、絨毯が敷き詰められた床には多くの男たちが倒れていた。多くは大義集團で間違いない。

しかし、ソファーの背もたれにもたれて倒れる男の顔は見覚えがあった。


「…張盛峰……」


重慶政府の指導者であり元実業家の張という男だ。事前に「いずも」の艦上で情報共有されていた。恐らく、深圳からヘリでここにやってきて殺されたのだと考えられる。周囲には、重慶政府の者だったのであろう渝州省の軍服を着た男も倒れている。

そして、全員が腹や頭などに貫通した怪我があり、そこから出血していた。穴は不自然なほど綺麗だが、銃弾の太さではない。伊吹が使うような光電子魔法によるレーザー光線だ。


「落ち着け、焦るな……」


いったい何がどうなっているのか分からず、伊吹は深呼吸をする。途端に、酒とタバコと血の匂いが鼻腔に入ってきた顔をしかめる。しかし、その酷い悪臭で焦りはいったん落ち着いた。


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