第三話: the Monster from Tikrit−3


先に伊吹と烏養、溝口、直井の4人は階段を上がり、まだ上階が続くことを確かめた。その後、上ってきた牛島たちが階段から少しだけ離れた廊下で一か所に集まった。そこを起点に、階段から離れるように斜め上方向にまず及川が光線を放ち地面を貫通、地面の厚みを確認してから爆風と衝撃波を起こしてすべての構造物を同じ斜め上方向に向かって破壊する。フロアが丸ごと崩落するのを防ぐための指向性だった。


「朝倉、こっち来い」

「え、」


烏養は伊吹を呼ぶと、伊吹を階段の壁際にしゃがませて、抱きしめるように覆いかぶさった。すぐ隣に直井と溝口もしゃがんで頭を保護する。瓦礫から守ってくれているらしい。

及川は「いくよ!」と大きく言ってから、光線を天井に向けて射出した。音もなく光が天井を突き抜け、コンクリートを突き破っていく。パラパラと石が落ちてきてはいたが、それだけだった。光は一瞬で消える。


「4フロア分くらいだからこのまま吹っ飛ばすよ!」

「了解!」


溝口が答えると、こちらに顔を向けて伊吹の頭に手を置く。


「ほら、頭伏せろ」

「あ、はい」


その直後、及川たちの爆発と衝撃波が放たれた。轟音とともに天井が吹き飛び、火花が散ってショートする音やガラスの割れる鋭利な音が響く。一瞬で暗くなり、大量の土や石が落ちてきた。大丈夫だろうか、と内心でひやひやとしていたが、すぐに「大成功!」という及川の軽い言葉が聞こえてきた。

顔を上げると、烏養たちも辺りを見渡している。階段の周りは大量の瓦礫に覆われてはいるが、崩壊はしていない。及川たちも傷一つなく、崩落した天井から差し込む日光を浴びていた。


「やっぱ太陽は偉大だね」

「ほんとな!」

「伊吹たちは大丈夫か」


及川と木兎が目を細めて空を見上げている横で、牛島はこちらに近寄ってくる。廊下は一面瓦礫だらけで、及川たちよりも先の廊下は消失している。本当に半分を吹き飛ばしたようだ。


「問題ねっす、にしてもマジですごいっすね…」

「よくやった。すぐ脱出するぞ」


伊吹が感心していると、烏養はすぐに銃を構えなおし、牛島とともに及川たちの方へ向かう。伊吹もついていくと、及川はライフルを上に向けた。


「今んとこクリア、いけるよ」

「よっしゃ!地上だ!」


木兎が早速瓦礫の山を登り始めた。及川も続き、その後ろを牛島、伊吹と続く。烏養たちは後ろから索敵にあたり、上っている最中に敵が現れてもすぐ迎撃できるようにしていた。


「魔法っていうなら、透視とかもできればいいのに」

「できるんじゃないか。できないと決めつける根拠はないだろう」


伊吹が思わず独り言をつぶやくと、意外にも牛島はそう返した。そうだ、こんなトンデモ現象、何が起こるか分からない。伊吹は牛島の後ろで瓦礫を地上への穴に向けて登りながら、周りをじ、と見渡した。

見えないところもすべて見通せるような、千里眼のようなことが何かできないか。目を凝らしていると、突然、目に軽い痛みが走ったあと、周りの瓦礫が透けた。一瞬足元が消えたかのように錯覚して、驚いて前を歩く牛島の背中に抱き着いてしまった。


「う、わっ、」

「どうした、」

「…できちゃったかもしんねえっす……」

「っ、俺たちの子供か」

「は?牛島さんもそんな冗談言うんすね」


何を言っているんだこいつは、と伊吹は手を離して周りを注意深く見渡した。どこか残念そうにしている牛島を放っておいて、伊吹はすべてが透けて地面が見えているのを調節した。足元を元に戻し、瓦礫に埋もれた穴の側面を透かして見ていく。壁や瓦礫の向こうの部屋から、銃を持った男たちがこちらに向かい始めたのが見えた。


「っ、地下3階と2階で敵が接近してます、」

「へっ、伊吹そんなことも分かんの?」


慌てて伊吹が前の3人に呼びかけると、及川が驚いて振り返る。牛島はようやく、「透視の話か」と納得していた。それ以外何があるというのか。

伊吹が複数の魔法を使えること、先ほども誰よりも早く敵の魔法に気づいたことから、及川たちは疑うこともなくすぐに上へと銃口を向けた。その様子を見ていた階下の烏養たちも、下から伊吹が示した場所を索敵する。


「2階は、あー、3時の方向?から6人です」

「こちらだな」

「そうです」

「認識に間違いはない、続けてくれ」


牛島はそう言うと地下2階の3時の方角に向けて銃口を向けた。東西南北が分からない状況ということもあって方向を示すのに慣れない表現をしたが、合っているらしい。


「3階は10時の方向から4人、6時の方向から5人来ます」

「ぼっくん10時方向任せた」


牛島に続いて及川と木兎も銃口をそれぞれの方向に向ける。そして、敵が瓦礫の隙間から顔を覗かせた瞬間、牛島が発砲した。すぐあとに及川と木兎もそれぞれの敵を仕留める。


「来るって分かってりゃ、ただのハンティングだな!」


木兎は明るくそうのたまった。この男が戦場ではなかなかぶっ飛んでいるのはもう慣れた。敵の命を軽んじているというより、味方や守るべき者の命を極めて重く感じているのだろう。ただ、及川も少し木兎のそんな様子に引いているようだったため、こうした本物の戦場に出ることが初めてだと考えると、木兎のこうした側面を見たのも今回が初めてなのかもしれない。


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