第三話: Demon City of the Orient−7


恐らく、深圳の平安国際金融中心ビル117階には、大義の幹部、重慶政府の指導部と張、そして大義のメンバーながら大義を裏切ろうとしていた者たちがいた。この裏切者が魔法科兵だ。
裏切者は大義幹部を殺害すると、張たち重慶政府のメンバーとともに香港へとヘリで飛んだ。そして九龍エリアが市街戦となって混乱している間に、この中環の廃墟にある本拠地を叩いた。その際に、裏切者は重慶政府メンバーすらも皆殺しにした。

目的は明瞭だ。魔法兵器は、魔力を持つ者にしか扱えない。この魔法科兵は、魔法兵器や魔法科学の情報を独占することが目的だったのだ。そのために重慶政府と大義集團を利用した。

重慶政府だけでなく大義集團まで裏切った理由はさすがに分からない。もともと組織を抜けるつもりだったのかもしれないし、別組織にいて協力関係だったものが信用できず殺したのかもしれないし、大義内で兵器を山分けすることを嫌がったのかもしれない。理由はいくらでもあった。

いずれにしても、問題は清风の在庫保管場所から奪われた兵器の現在地だ。恐らく、ここまで事態が進行しているのであればもう裏切者たちの手に渡っている可能性が高い。


「にしても、奪ってからどこに行くつもりだ…?潜伏場所なんて、廃墟の香港や深圳を出たら近くにはねぇぞ…」


広東省で大戦時に被害を受けたのは香港と深圳だけで、周辺のマカオや珠海、広州などの街は大戦前から変わらない。その状態で大量の魔法兵器を隠しておくことは難しい。

と、そこへ、ヘルメット内に無線の白福の声が響く。


『こちら司令部、香港市警より伝達〜。清风技術の在庫保管倉庫はすでに強奪された後だったって〜』


渉外担当の白福が通達したのはまさにちょうど伊吹が聞きたかったことだった。


「こちら朝倉、司令部へ、中環の大義集團本拠地にて、重慶政府トップ張盛峰と大義集團の首領(ドン)を含む遺体を多数確認。大義および重慶政府ともに幹部は全滅した模様」

『なんだって…?!』


無線からは烏養の驚く声が聞こえてきた。さすがに全員驚いているようだ。無線で聞こえてくるわけがないのに、九龍にいる他の第1魔法科大隊の隊員たちもざわついているような気がした。


「重慶政府と大義の両方を利用し騙した第三者、それも魔法科兵がいたと見ていいと思います。中環から移動する大型の輸送車を特定できますか」


無線の向こうに呼びかけると、存外落ち着いた声で武田が返してきた。やはり司令官だけある。


『過去1時間ほどの衛星情報を遡ってAIによる特定を行います。5分待っててください』

「了解です。谷地指令、SIA-814bの手配は可能?」

『すでに「いずも」から中環に向かわせています!観覧車のあたりでいいですか?』

「大丈夫、さすがだな」

『ッ、シャチ!!』


シャチ…?と思いつつ、仕事の早い谷地のおかげで輸送機に乗り込む頃には特定も済んでいるだろう。及川たちも、徒歩で埠頭から東にある海浜公園の観覧車付近に向かっているはず。SIA-814bは孤立空間魔法装甲の輸送機として最新の814シリーズで、aは報道ヘリレベル、bは10人乗り程度、cはいつも使っている80人乗りの大型輸送機だ。小回りが利く中型のものを先に手配してくれていた谷地は優秀である。

割れた窓から外に飛び出した伊吹は、金融センターの向こうに見える観覧車へと飛ぶ。西の空を見れば、真っ黒な輸送機が接近してきていた。


観覧車の前にある広場に降り立つと、すぐに及川たちも着いた。無線で状況は理解しているためわざわざ聞いてくることはない。さらにすぐあとに輸送機もホバリングを開始して降下してくる。
及川に続いて、座席が壁を背に並ぶ輸送機に入ると、ちょうど武田から無線が入った。


『こちら司令部、魔法兵器を運搬していると思われるトラックを発見。中環の交易廣場付近から大型トラックが2台、高速道路を西へ走行しています。現在地はランタオ島の8号線。恐らく、マカオ方面に向かうものと思われます』

「及川より司令部、当然、追うよね?」

『お願いします。会敵ポイントは港珠澳(ガンジューアオ)大橋となると思われます』

「了解」


香港島の西に浮かぶランタオ島の北側にある香港国際空港付近から、マカオに向かって西に珠江河口を横断して伸びる世界最長の橋が港珠澳大橋である。香港を出てから、一部海底トンネルを通る巨大な橋だ。片側3車線の橋は大戦中に何度も閉鎖されながらも存続している。
香港側の空港は閉鎖されているため、ランタオ島にいるのであれば行先はこのまま港珠澳大橋で間違いない。

全員が乗り込んで、輸送機は上昇を始める。魔法科がいるとなれば、予想される戦闘はより激しいものとなるはずだ。自然と気が引き締まる。そんな一同を、及川が見渡した。


「何が起きているのか、魔法科兵の目的はなんなのか、今は分からない。だけど、このまま清风の魔法兵器がその何者かの手に渡れば、あっという間に魔法は大量殺戮の道具になる。これは、俺たち魔法科兵の存在そのものすら脅かす事態だ。当局には申し訳ないけど、港珠澳大橋を落としてでもとっ捕まえるよ。いいね」


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