第三話: Demon City of the Orient−8


ランタオ島西岸上空を飛行する輸送機は、眼下に珠江口のくすんだ青い海と白く伸びる長大な橋を見ながら高度を下げていく。港珠澳大橋はランタオ島の西の沖合で人工島から海底に潜る。これは巨大な船舶を通すためで、海底トンネルは6000メートル以上にわたって地下を進んだ後、再び人工島から海上に顔を出し、そこからはマカオまでずっと橋となる。途中、吊り橋の区間を経てからマカオと珠海市に分岐する。
かつては最初の人工島の手前で香港と中国本土との国境となっていたが、今は統一されたことでなんの境でもなくなっていた。

現在、深圳事変と香港侵攻によって大橋は完全に封鎖されており、走行していた車はすべて香港かマカオに出ているため、橋の上には一切の車が残っていない。
それなのに、橋の上を走行している大型トラックが二台、上空からでも見えていた。


「事故起こされても困るしね、避けられる程度に道塞ごうか。赤葦君はこの機体に迷彩魔法展開して、やっくんは俺の指示でトラック前方に孤立空間魔法を展開してもらっていい?」

「了解です」

「分かった」


赤葦はすぐに輸送機に迷彩魔法を展開して見えなくする。ギリギリまで相手から視認できなくするのだ。迷彩魔法が展開されるのを確認すると、輸送機は一気に高度を下げ始める。ちなみに、輸送機の運転は司令部による遠隔操作だ。
橋まであと100メートルほどまで迫ったところで、及川は夜久をちらりと見遣った。


「やっくん、お願い」

「ん、」


夜久は指示されるなり、トラック前方30メートルほどに巨大な黒い壁を出現させた。トラックは急ブレーキをかけて停車する。


「よし、飛び降りるよ!」


及川が叫ぶと同時に、伊吹は輸送機の扉を開けて外に飛び出す。すでに橋の頭上20メートルほどになっており、トラックから降りてきた男たちの表情も見える。
後ろから他のメンバーも続いて落ちてくるが、片側3車線の広い道路に向かって伊吹の風気魔法が支えてスムーズに落下する。
下からは銃撃が始まったがすべてシールドに阻まれる。そして案の定、敵は衝撃魔法を放ってきた。やはり魔法使いがいる。しかしその衝撃波もシールドによって阻まれ、落下軌道すら変わらず、Midnightは全員が右側車線に降り立った。

大橋の道路は中央分離帯の腰丈ほどのブロックによって区切られており、中央分離帯に立つ背の高い街灯が一定の間隔で並ぶ。ランタオ島の西でカーブする部分を超えたところで、ここから人工島までほぼ一直線となっている。海側の柵も中央分離帯と同じブロックに鉄柵がついただけのものであるため、かなり見晴らしはいい。

伊吹たちはトラックの背後に立っており、トラックの前方にはいまだに夜久の壁が見えていた。
降りてきた男たちは5人、全員恐らく魔法科だ。うち二人、茶髪の麻呂眉ともじゃっとした黒髪の二連黒子が特徴的な男たちは見た目に日本人のように見えた。比較的日本人と区別がつきにくいのが広東地域の人々であるが、それでもやはり日本人っぽさというのは分かるものだ。
いったいなぜ、と思いつつ相手の出方を窺っていると、麻呂眉の男がいきなり背後に向けて手をかざした。透視するまでもなく大量の魔力を感じ取った瞬間、夜久が呻いた。


「うぐぁッ!!」

「夜久さん!」


隣にいた影山が慌てて支える。そのときにはすでに夜久の孤立空間魔法が消滅しており、トラックが走り始めていた。
どうやら魔力の逆流によって夜久の魔法を破壊したらしい。夜久もかなりの魔力を持つ魔法科兵だ、その単純な孤立空間魔法を打ち消すなど、第1魔法科大隊ですらできるのは伊吹や隊長クラスだけだ。
つまり、あの麻呂眉は少なくとも小隊長レベルということである。Midnight全員に緊張感が高まった。


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