第三話: Demon City of the Orient−10
鉄骨は逃げようとした二人に落下し、二人はシールド兵器に守られながらも地面に倒れ込む。頭上から衝撃波が絶えず鉄骨ごと二人をプレスするように放たれ続け、道路にも亀裂が入る。巻き込まれた街灯もひしゃげる。
やがて男たちは鉄骨に対して発動し続けるシールドに押しつぶされ、呼吸ができなくなり意識を飛ばした。その瞬間に伊吹はすべての魔法を解く。同時に瀬見も二人に落下しようとした鉄骨を粉々に粉砕した。二人は恐らく死んではいない。
「よくあんな鉄柱を粉々にしますね」
「まぁな。お前も微妙に橋の表面から反作用衝撃魔法かけて、橋が落ちないようにしてたろ」
「まぁ、はい」
「さすがだな」
瀬見は端正な男前な顔を緩めて伊吹をダイレクトに褒めてくる。この兄貴肌の男はこういうところがあって、後輩たちから好かれている理由でもある。
そこへ、走ってきた影山と夜久が追いついた。
「倒したか?」
「はい、壁ありがとうございました」
「それくらいしかしてねーけどな」
夜久は苦笑すると孤立空間魔法の壁をしまう。影山は少し不満そうにしていた。
「俺なんもしてねぇッス」
「まだ終わってねぇぞ」
伊吹は影山をなだめながらトラックに向かおうとした。
その瞬間、瀬見たちの足下のアスファルトが突然砕けた。
「なッ…!」
驚いた瀬見たちは慌てて飛び退くが、吹き飛んだ瓦礫はシールド半径の内側に飛んだため、瀬見と夜久の足や腕を切り裂く。迷彩服を破き血しぶきが散った。
すんでで避けた影山と伊吹だったが、突如として開いた穴から出てきた巨体にさらに距離を取ろうとその場からバク転の要領で離れた。
出てきた男は瀬見に真正面から衝撃魔法を放ち吹き飛ばす。シールド半径の内側からの攻撃だったため、瀬見はもろに食らって吹き飛ばされ、左車線の海側のブロックに激突する。そのままブロックを破って落ちるようなことこそなく、背中はシールドによって守られたものの、瀬見は血を吐いて道路に散らした。
「瀬見さんッ!」
伊吹は駆け寄ろうとしたが、男はさらに夜久にも攻撃を仕掛けた。さすがというべきか、夜久はシールドよりも早く孤立空間魔法を展開して攻撃を防いだが、足下のアスファルトが吹き飛ばされた際の怪我で体勢を崩し、その隙に男は夜久を中央分離帯のブロックにたたきつけた。
夜久は顔をしかめて痛みに耐えている。伊吹と影山は男を挟むように立つ形で避けきった。そこで伊吹は、男の正体に気づく。
「…百沢……」
「さっきぶりだな」
深圳での殊勝な態度はどこへやら、百沢は感情の読めない表情で伊吹と相対する。服装こそ先ほどと変わりはないが、天童に脅されびくついていた様子はまったく窺えない。
「お前が敵側の可能性は天童さんの言ってた通り俺も疑ってたが…お前、重慶政府でも大義でもねぇな」
「あぁ。あの赤髪のヤツが言ってたことはかなり正しい。あの場に残ったのは、お前ら国防軍に大義との関わりを教えて香港の大義本拠地に向かわせるためだった。重慶政府と大義、両方の戦力を削ってもらいつつ九龍と中環に縛り付けて時間稼ぎするつもりだったんだが、早かったな」
「お前は深圳から船でここまで来て、下からお出ましってとこか?」
「そういうことだ」
百沢は平安国際金融中心ビルで伊吹たちと分かれたあと、船で深圳からここまでやってきたのだろう。そしてシールド半径に入るため下から攻撃を仕掛けたわけだ。
「その衝撃魔法のコントロール力の高さ…清风のエンジニアってのは本当で、サーバールームのセキュリティを魔法で破ってハッキングしてたのもお前か」
「その通り。まぁ、大義に送ってたデータはダミーだけどな。清风魔法科学研究所のデータを送ったのは別の場所だ」