第三話: Demon City of the Orient−11
どうやら伊吹たちがサーバールームで見たPCのハッキング画面は、大義にそれらしいダミーを送っていたところだったらしい。本物の情報は、百沢が真に属している組織に送られたのだろう。
「本物のデータはお前の所属組織に送ったと」
「あぁ」
「……お前、何者だ」
本題だとばかりに魔力を漲らせながら聞くと、それを感じ取った百沢はニヤリと笑う。
「さすが、存在が国際法違反なチート兵士だな」
「うるせぇ、言うつもりがねぇなら拷問も辞さねぇぞ」
「あんたには無理だろ」
脅しても百沢はまったく聞いていない。それどころか、伊吹を見つめるその精悍な顔には、なぜか慈愛のような色が見える。伊吹が訝しむと、百沢は微笑んだ。
「あんたは、優しいからな」
「は……?」
どういうことが問いただそうとしたが、そこに影山が鋭く声をかける。
「吐くつもりがねぇんなら時間の無駄ッスよ伊吹さん。及川さんたちから連絡がねぇのも気になります」
「…そうだな」
聞きたいことはあるが、確かに今は任務中だ。影山の言うとおり目の前の百沢の意識を飛ばそうと魔法を展開しようとした。しかしその瞬間、伊吹の目の前に突如として別の男が現れた。茶髪の麻呂眉が特徴的な背の高い男だ。男は別の人物の首を絞めながら伊吹の目の前に上から落ちてきた。
「ッ、赤葦!!」
麻呂眉男が地面に叩き付けて首を絞めていたのは赤葦だった。赤葦は呻いてコンクリートに叩き付けられ、発動したシールド兵器によってアスファルトに罅が入るほどの強さで男に押しつけられていた。
伊吹はすぐに男の腕を吹き飛ばそうと衝撃魔法を展開しようとしたが、男はにっこりとした。
「やっと会えたね、伊吹君」
「っ!?」
その一瞬の隙に、男は複雑な閉鎖空間魔法を展開し、伊吹を吹き飛ばした。一瞬だったため自信はないが、恐らく反作用衝撃魔法と閉鎖空間魔法の並列展開だ。
吹き飛ばされた伊吹は、慌てて飛び出した影山に受け止められる。影山の逞しい体に受け止められ、伊吹は怪我こそなかったが、すぐ目の前に迫った麻呂眉に息をのんだ。
直後、伊吹と影山の正面に黒い壁が現れ麻呂眉は後ろに飛びすさった。見れば、夜久が粉々になった中央分離帯のブロックに寄りかかりながらこちらに腕をかざしていた。朦朧とする意識の中で伊吹たちを守ってくれたらしい。
さらに、そこにエンジン音が聞こえてくる。透視すれば、百沢がトラックに乗り込んでいた。道路を塞ぐ鉄骨を吹き飛ばし、さらに倒れていた男二人を無造作に殺している。逃げるつもりだ。
追いかけようにも、麻呂眉は再び夜久の孤立空間魔法に魔力を流してかき消した。その衝撃で夜久は完全に意識を飛ばす。瀬見も赤葦も動かない。
ここまで追い詰められた状態で、影山と二人で百沢を追いかけることはできないだろう。伊吹は支えてくれていた影山から離れて立ち上がり、二人で並んで麻呂眉と対峙する。麻呂眉はこちらの警戒を感じ取って、またにっこりと笑った
毒気のない顔なのに、しかし全身に隙がない。
「俺の名前は古森元也。会えて嬉しいよ、伊吹君」
「…俺は嬉しくねぇけど」
「お前、伊吹さんに何の用だ」
影山は低く唸るように古森という男に尋ねるが、古森は途端に興味のなさそうな顔で影山を一瞥する。
「お前に興味はないんだよね。あぁ、それに、また面倒そうなゴリラが来た」
古森は影山の後方に視線をやってさらにつまらなさそうにした。後ろから急速に接近してくる気配は慣れたものだ。そして、すぐに背後に少しの風圧とともに降り立つ。
「伊吹、前のトラック追って。飛雄、二人でやるよ」
及川は、恐らく衝撃魔法を足から展開することで伊吹のように空中を移動してきたのだろう。あまりに早すぎる。及川が戦っていた後方はどうなっているのか気になるが、それどころではない。