第一話: กระต่ายหมายจันทร์−4


伊吹はその後しばらく瀬見に寄りかかって眠っていたようだったが、突然、機内に緊迫したアナウンスが流れたことで目を覚ました。瀬見は起こそうとしてくれたようだが、勝手に目を覚ました伊吹を見てアナウンスに注意を戻す。
機内は暗く、多くの人がモニターを消して眠りについていたようだ。静かだった機内は一転、聞こえてくるアナウンスにざわついている。キャビンクルーたちも動揺していた。


『What’s your purpose?!(何が目的だ?!)』

『It’s not your business.(お前たちには関係のないことだ)』


機長らしき男性の声と、機械的な温度のない女性の声。

実は、国防軍の伊吹たちが乗っていること、任務中であることは各フライトの機長たちしか知らない。タイ政府の要請を受けて、国連からパイロットたちに直接伝達されている。クルーたちは当然、これが突発的な事態だと認識しているだろう。


「…引きましたね、俺ら」

「そうだな。運が悪いのかなんなのか…」


伊吹がテロ予定のフライトを自分たちが引き当てたことを瀬見に言えば、瀬見もため息交じりに返した。もちろん、焦ってなどいない。
パイロットたちがこうして機内アナウンスをオンにしているのは、伊吹たちにテロ発生を伝えるためだ。


「夜久さん」

「おう。作戦通りだな」

「はい。行きましょう」


伊吹と瀬見、夜久は立ち上がり、機内前方へと歩いて行く。エコノミークラスの客室からどんどん前へ進み、プレミアムクラスを仕切るカーテンをくぐってさらに前へ進む。気づいたタイ人らしき女性クルーが「Excuse me, Sir.(すみませんお客様)」と声をかけてきたが、誰が犯人で誰がそうでないかまだ判断できないため黙殺する。
戸惑うクルーを押しのけて、ビジネスクラスのゾーンに入り、さらにファーストクラスの客室に入る。
様子がおかしいことからビジネスクラスのクルーが、チーフであるファーストクラスのクルーに確認しようとして、そのチーフがおらず慌てているのが見えた。

化粧の濃い女性クルーたちは伊吹たちを見て焦ったように日本語で声をかけてきた。


「お客様、お席にお戻りください」

「我々は日本国防軍です。タイ王国政府および国連の要請に基づき、当該機内での任務を遂行します。下がっていてください」


大尉である伊吹が前に出て告げ、クルーたちに後方を示す。ファーストクラスの乗客たちは怯えたように伊吹たちを見上げていた。
クルーはどうすればいいのか分からず顔を見合わせている。彼女たちを納得させる必要などないため、伊吹はコクピットへと向かった。慌てるクルーを瀬見が優しく、しかし強引にどかせた。夜久は伊吹の後ろから続いてコクピットの扉を見つめる。


「どうやって入ったんだろうな」

「犯人はファーストクラス担当のチーフクルーっす。コクピットの機長たちのサポートをするのもチーフの仕事なんで、出入りは簡単だったはずっすよ」

「なるほどな。にしてもチーフクルーがテロリストとはな…」

「どういう算段なのかまだ分からないんで、夜久さん、頼みます」

「おう」


コクピットに自然に入ることが許可されるチーフクルーがテロリストであれば非常に容易だ。もちろん、羽田で銃火器を持ち込むことはたとえクルーにもできることではない。魔法科である可能性もあった。だからタイ政府は国防軍に応援を要請したのだ。

まず伊吹はコクピットを透視する。中の様子を確認するためだが、コクピットでは操縦席についた機長と副機長が振り返っており、その視線の先、この扉の前にはクルーの女性がいた。特に拳銃を突きつけるでもない。何をするつもりか分からないため、最大限の警戒をして作戦を始めた。


「独立衝撃魔法を展開します。扉より前方80センチの展開位置、75センチ四方で孤立空間魔法を展開してください」

「了解」


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