第一話: กระต่ายหมายจันทร์−5


そう言って伊吹は透視したクルーに独立衝撃魔法を展開した。パリのときと同じく、脳震盪を起こすためのものだ。それを展開した直後、夜久も伊吹が指定した場所に孤立空間魔法の箱を展開してクルーを閉じ込めた。クルーから魔法が放たれてもコクピットにダメージを与えないようにするためだ。
伊吹の衝撃波によってクルーが倒れた瞬間に黒い壁が覆い、クルーは閉じ込められる。


「…魔力反応なし、クリア」

「マジか」


後ろから瀬見が驚いたように言った。まさかここまで一瞬でことが済むとは思わなかったからだ。
伊吹は扉をノックする。


「We are National Defense Army of Japan. Could you open the door?(日本国防軍です。ドアを開けていただけますか?)」


呼びかければすぐに扉がスライドして開き、コクピットの中に招かれる。目の前にある壁を夜久が消すと、クルーがぐったりとして倒れる。床に転がった女性クルーを脇に寄せてから機長たちの方を見た。


「Have you got any injured?(どこかお怪我はありますか?)」

「No. It’s over?(いえ。もう終わったんですか?)」

「Maybe. It was too easier than I expected, but from now we stay here to keep your safety.(恐らく。予想よりも簡単過ぎた感はありますが、これよりあなた方の安全を維持するためここに留まります)」

「Then nothing to worry, thank you.(それならばもう何も心配いりませんね。ありがとうございます)」

「Our pleasure.(いえ)」


瀬見はクルーを運び出しコクピットから連れ出す。背後に控えていた他のクルーたちは驚いていた。コクピットが閉じると、機長から機内放送が入り、テロ未遂が国防軍によって解決されたことが報告された。
機内は拍手で満ち、動揺していたクルーたちも笑顔で礼を言ってくる。

そこからはただの退屈な時間となった。
瀬見と夜久がコクピットの扉の前で守るために立ち、伊吹はファーストクラスのギャレーから機内全体を透視し続け不審な動きがないか監視する。気を利かせてクルーが飲み物などを出そうとしてくれたが断った。申し訳ないが、依然として犯人が一人とは限らなかったからだ。

すでに離陸から5時間近くが経過しており、機体に異常もないことから、スワンナプーム国際空港からは通常通りの着陸を許可されている。

着陸間際が何かことを起こすなら最後のチャンスとなるため、伊吹はさらに警戒を続けていたのだが、結局そのまま何も起こらず、5R679便は平常通りバンコク・スワンナプーム国際空港に着陸した。


「…え、マジで終わりっすか」

「……そうみたいだな」


何事もなく到着し、駐機場にたどり着いたのを見て、思わず伊吹は呆然と夜久に尋ねてしまった。夜久は窓から見える早朝の空港を見て、やはり呆けたように返した。
あまりに呆気なく感じてしまうのは、これまで国防軍がかり出された案件が異常だったからだろうか。

瀬見も同じ考えに至ったのか、停止した機体にボーディングブリッジが接近してくるのを見ながら口を開く。


「まぁ、考えてみりゃ、今まで俺たちに依頼されてきたのって、函館やパリを解放しろだの、北九州で救援活動しろだの、深圳と香港を掃討しろだの、国家レベルの非常事態だけだもんな」

「まぁ…そうですけど……拍子抜けっつーか」

「いんじゃね、ちょっとした休暇と思えば」


やはり瀬見は男臭くそう言って笑った。

クルーは前方の扉を開きボーディングブリッジと接続している。その間に、別のクルーが伊吹のところへやってくる。


「これよりバンコク警察がテロリストの身柄を拘束します。引き渡しが終わってからお客様の降機を行い、最後に皆さんにも降りていただく形となります」

「了解しました」


すでに空港にはテロリストの身柄を拘束するための警察が来ていたようだ。扉が開くと、示し合わせたように警察官たちが入ってくる。いまだ気絶したままのクルーを抱きかかえて、警察はターミナルへと向かう。
伊吹も短く警察に報告をしてから礼を言われ、任務完了となる。

そうして、乗客たちも全員降りていき、伊吹たちも自分の荷物を回収して最後に飛行機を降りた。途端にむわっとした湿度と暑さが肌に纏わり付く。
ブリッジの中を伊吹と瀬見と夜久と歩きながら、伊吹は携帯端末を起動する。


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