第一話: กระต่ายหมายจันทร์−6
ターミナルに入って、効き過ぎたエアコンの寒さに一瞬震えた頃には、端末も起動して電波を拾っていた。すかさず伊吹は報告用に日本へと電話をかける。
『こちら富士駐屯地司令部、武田です。お疲れ様です、朝倉一等陸尉』
「お疲れ様です。今、5R679便を降りました。テロを起こそうとしたクルー1名を拘束、現地警察に引き渡しました」
『朝倉君が引きましたか。怪我や異常はなかったようですね』
「はい。あんまり呆気なくて驚いてるところっす」
『今までの相手が強大すぎたんですよ。あと5時間以内にMidnight全員がスワンナプーム国際空港に到着します。予定通り、東京行きのフライトを待って帰国してください。入国は前提としていないので、バンコク市街には出させてあげられなくて恐縮ですが』
「いいっすよ別に。寝ます」
『そうですか。それでは及川君たちにはこちらから報告しておくので』
「はい。それでは」
報告を終え、端末をしまう。ゲートを出て大きなコンコースに出ていた伊吹たちは、ここから全員が揃うまで5時間ほどこの空港に待機する。そして昼過ぎのフライトで帰国するのだ。
時刻は午前5時、徹夜したとき特有のけだるさを感じる。
2階分の吹き抜けとなったコンコースは非常に長く、動く歩道が続く先はもはや見えない。それほど長く遠くまでこの吹き抜けの回廊は続くのだ。
ちなみに2階は出発ゲートがやはり同じように長大な通路となって続くのがガラス窓越しに見える。
このコンコースはコンコースDと言って、Hの形をしたターミナルビルの真ん中にある東西方向に伸びる通路だ。通路の東側の端がEASTゲートのコンコースA〜C、西側がWESTゲートのE〜Gとなっている。トランジットする航空会社や行き先によって使い分けられている。
一定の間隔で通路の壁には時刻表のほかに各会社が東と西どちらのゲートを割り振られているか表示されたモニターがあった。それをちらりと見て、帰国便の日本の航空会社がEASTゲートを振られていることを確認する。
「とりあえず適当なとこ座りますか」
「そうだな」
制限区域の外はいろいろとレストランなども多いのだが、制限区域内はたいしたものがない空港であるスワンナプーム国際空港は、正直数時間を過ごすには劣悪な環境なのだが、さすがに軍人であるためそれくらいは問題なかった。
とりあえず座って及川たちを待とうと、伊吹は近くのベンチに向かう。鉄の無骨なベンチは堅く、真ん中に伊吹が座って右側に瀬見が、左側に夜久が座る。
戦前はひっきりなしに様々な人種の人々が行き交っていたこのコンコースも、今は人もまばらだ。それでも、世界の国際空港の中ではかなり人が多い方だ。
その人の流れを見ながら、沈黙が過ぎていく。ふと、伊吹はあまりに楽だった任務を振り返って、「まぁ、」と言葉を発した。
「俺ら魔法科兵にすればたいしたことじゃなかったっすけど。もし俺らがいなければ、あのフライトは最悪の事態になってたんすよね。魔法テロは魔法使いにしか解決できねぇんすから」
「そうだなぁ。俺に至ってはマジでなんもしてねぇけどな」
「ほんとだぞ瀬見おい」
魔法というものが規格外すぎるのだ。一般の人々や警察、軍は魔法の前にあまりに無力だ。あのフライトも、伊吹たちからすれば造作もなく解決できたが、場合によって墜落もあり得ただろう。
特に出番のなかった瀬見に夜久が呆れたように言うが、伊吹は右隣に少し倒れて体を預けてみた。
「っ、伊吹?」
「…瀬見さんは俺のパフォーマンス上げてくれたじゃねっすか」
「パフォーマンス?」
「めっちゃぐっすり眠れました」
「あぁ…ったく、たまにマジであざといな」
瀬見は伊吹の意味するところ理解して、苦笑しながら伊吹の頭を撫でてくる。それを見た夜久はニヤニヤとした。
「伊吹も同期とか年下いるときっちりしてんのにな。年上だけしかいねぇと結構、甘ったれたとこ見せるよな」
「……わりぃっすか」
「全然?くっそ可愛い」
その自覚は正直あるため悪びれずに言うと、夜久も伊吹の頭をわしわしと撫でてくる。特に兄貴然りとしたこの二人は甘えやすい空気感であるというのもある。
あからさまに、よりもっと甘えてしまうのは当然、及川や牛島に対してであるが、この二人も特兵連の第二中隊時代から付き合いがあるため伊吹にとって頼りやすい相手だった。