第一話: กระต่ายหมายจันทร์−8
間延びした侑の返事に舌打ちをしつつ、二人は通路の先、EASTゲートのトランジット用保安検査場にたどり着いた。長い列を並ばせるために迷路のように広い空間に巡らされた鉄柵のあるエリアで、その鉄柵の先には上階へと上がるエスカレーターがある。このエスカレーターの先に保安検査場が10レーンほど並ぶ。
銃撃音が構内に連続して響いており、人々は悲鳴を上げて広い空間をコンコースDへと走る。エスカレーターからは多くの人々が上りであるにも関わらず下ろうとして転んでいた。どうやら銃撃は上階で起きているらしい。うっすらと硝煙の匂いがする。
伊吹は侑とともにエスカレーターの頭上を通過して上階の3階に入った。保安検査場には多くの人々が駆け込んでくるが、散乱した荷物やトレーに躓いて転ぶ姿が見られる。金属探知ゲートはひっきりなしに警報音を響かせる。
空中に浮かぶ二人を見てまた人々が声を上げるが、二人の視線の先にはちょうどこちらに銃口を向ける男たちが見えていた。
男たちは銃撃を放ったが、二人のイネクシアが発動して銃弾は弾かれる。近くで銃声がしたことで、保安検査場にいる人々は蹲って一斉に悲鳴を上げた。伊吹は衝撃魔法を男に展開したが、男は簡単に脳震盪によって倒れる。
魔法を使わないのか、と思った瞬間、男の体が大きく爆発した。どうやら意識と連動する爆弾を体に仕込んでいたらしい。爆発によって爆風が保安検査場に吹き抜け、金属探知ゲートが倒れて天井パネルが落下し照明から火花が散る。
慌てて伊吹と侑も地面に降りて落下するパネルを避ける。
そこからは人々を避けながら床を走って、倒れたゲートを跨いで保安検査場を抜ける。煙が立ちこめたことで火災報知器が鳴り響き、銃声と悲鳴は断続的に続く。保安検査場にいた人々は顔を上げて周囲の状況を確かめているのか、ざわついていた。
EASTゲート出発階は、十字にA〜Dの四つのコンコースが交差している。Dは先ほどまでいたコンコースの上階部分にあたる。保安検査場はコンコースCの隣にあり、検査場を出るとこの十字の交差部分に出るようになっている。手前に折れるとコンコースCに入る。Cの反対側、保安検査場の正面にはコンコースA、右手にB、左手にDとなる。右手のBの方にはトランジット用のチェックインカウンターがある。
二人はまず保安検査場を抜けてコンコースAの方へと歩くが、構内は悲惨な有様だった。
Transfer Counterと書かれた案内板が地面に落下して割れたプラスチックが床に散らばっている。爆発の衝撃でモニターが割れた出発案内のディスプレイは真っ暗になっていた。
煙の中、主観透視によって状況を確認すると、依然として各コンコースでは無差別銃撃が行われていた。遅れて駆けつけた警察との銃撃戦も起きていた。そして、それによってテロリストが倒れる度にその体が爆発した。
また爆発音が響いて悲鳴が上がり床が振動する。
「めちゃくちゃやな…」
「ほんとにな。これじゃ迂闊に倒せねぇ」
「どないする?」
侑は混乱する空港を見て顔をしかめてはいるが、特に動揺した素振りはない。当然だ、侑も函館からずっと魔法科どうしの戦闘を経験している。
「見たところ魔法を使ってねぇから、まずは警察に任せる。任務外だしな、こんなん」
「え、じゃあ俺らはあれか?首謀者を見つける的な?」
「正解。最初の爆発は魔法だった。あれを起こしたのが主犯格とみていいだろ」
「確かになぁ。よし、じゃあ二人で俯瞰透視してそれっぽいヤツ捜しに行くかぁ」
「突っ立てるわけにもいかねぇ、そこのトイレ入るぞ」
伊吹は侑とともに、コンコースAに入ってすぐにあるトイレに入った。当然誰もおらず、照明が瞬く中で二人とも目を閉じて俯瞰透視を開始した。探すのは、この混乱の中にあって逃げるでも戦うでもない人間だ。魔法使いが銃撃戦に銃で加わっているわけがないが、しかし最初の爆発以降魔力の反応はない。
一人一人を見ていく必要があるため時間を要する。外で立っているわけにもいかないため、こうしてトイレにいた。