第一話: กระต่ายหมายจันทร์−10
赤葦と分かれ、伊吹は侑ととともにコンコースAの吹き抜けの向かって左側を進んだ。右側に吹き抜けの階下を見ながら通路を走り、左手のラウンジの並びから目的のラウンジを見つける。高級そうな装飾がされたシックな壁は爆発の衝撃でほとんど崩れ床にパネルが転がっている。受付のカウンターに一度隠れると、室内を透視する。
カウンターを抜けて向かって左手にはドリンクコーナーがあり、右手には軽食スタンドとカラフルなソファーの並ぶ部屋がある。正面には仕切りで区切られた大きな椅子がブースのようになって広く並んでいる。正面の壁はガラス張りの窓となっているが、亀裂が入っていた。
正面のブースで区切られたエリアの一角に警察姿の男が三人いて、こちらまで話し声が聞こえてきた。内容はたいしたものではなく、単に駄弁っているだけのようでもあった。
カウンターの内側で、侑と床にしゃがんで様子を窺う。
「どないする?殺す?」
「捕まえる。一瞬であいつらのシールド半径に入るぞ」
「どう分ける?2:1?」
侑はしれっと2を伊吹に向けて自分に1を示す。まぁいいか、と伊吹は「それでいい」と返した。
二人はカウンターから出ると、腰を屈めて仕切りの後ろに隠れながら男たちに近づいていく。そして男たちからソファー一組分を挟んだところまで近づいた。
ふ、と息を吸ってから、伊吹は無言で右手の中指と人差し指を揃えて上に向かって立てると、それをすっと前に向けた。
直後、伊吹は一気に仕切りの上に風気魔法で飛び出して男たちの頭上に躍り出た。侑はその隙に走って通路から男たちのブース内に突っ込む。驚いた男たちが反応する前に、伊吹は金髪にピアスの男の首に左手の、黒髪の男の首に右手の指を押し当てた。一人がけのソファーにふんぞり返った男たちはそこから動けない。
侑ももう一人の一際背の高い男の米神に指を当てた。
「動くな。殺すぞ」
「ヒッ…!!」
金髪の男は情けない声を上げて竦む。黒髪の男も硬直していた。シールド半径の内側にいるため、殺そうと思えばすぐに殺せる。
「日本人だな。名乗れ」
「っ、国防軍、だろ…」
「聞いたこと以外喋るな」
ぐっと指先を首筋に強く押し当てる。死を直感する首筋への圧力に、金髪の男はごくりと唾を飲み込んでから口を開いた。
「…照島、遊児」
「……母畑和馬」
金髪は照島、黒髪は母畑というらしい。また、侑が米神を指先で押さえる男は「二岐丈春」と名乗った。伊吹は金髪の男に絞って質問を続けた。
「照島、お前とこの二人はVASNAに所属しているな」
「…そうだけど」
「このテロを首謀したな」
「……いや、首謀したのは俺らじゃねぇ。俺らはただ、実行役の指揮っつーか」
「手引きしたってだけで…」
母畑も言葉を補う。伊吹はお前には聞いていないとばかりに睨み付けた。すぐに母畑はきゅっと口を閉じる。
「5R679便のテロ未遂に駆けつけた警察に扮してスワンナプーム国際空港に侵入、爆発に乗じて持ち込んだ武器を外で戦ってる奴らに渡した。間違いないな?」
「その通り…あいつらは魔法使いじゃねぇし…」
「そんでお前らは警察のふりをしたり武器を手配したりって部分はやってねぇんだな」
「そ、そう…作戦も別のヤツが立てて、いろんな準備もそいつが……」
照島の声は震えている。テロリストにしては小心すぎる。なんだこいつらは、と伊吹は訝しむが、総じて予想通りの展開であることの確認が取れていくことで、次の質問に入る。
「作戦の立案と準備は誰がやったんだ」
「…佐久早。あんたなら知ってるだろ、伊吹サン」
「……佐久早はどこにいる」
「さぁ。俺から会おうとして会えるヤツじゃねぇし。もうタイにはいねぇんじゃね」
「百沢と古森の居場所は」
「百沢はアジアにいるとしか聞いてない…古森も知らねぇ」
「ハイジャックのクルーについて知ってることは」
「知らねぇ。洗脳して魔法使いにしたって聞いた」
「やっぱりな」