第一話: กระต่ายหมายจันทร์−11
あのクルーの様子はハイジャック犯にしてはおかしかった。要求を述べなかったのだ。ただの陽動にしてももう少しうまくやるだろう。武器を運び入れるためだけなのだったとすれば、あのおざなりさも頷ける。
「日本で洗脳したヤツがいんのか。それともタイ国内か」
「日本で洗脳したって聞いてる…なぁほんと俺らたいしたことしてねぇんだって、俺ら人だって殺せねぇもん」
だろうな、と伊吹は内心で思った。あまりに普通というか、人を殺せるような人間ではない。
「お前らがその程度だってのは分かってる。でもな、こんだけのこと引き起こしておいて、間接的に殺した人々の数はそのままお前らの罪だ。もう必要なことは聞けたし、いつでも俺たちはお前らを殺せる状態だ」
「っ、あんた、ほんと、やっぱ最初から人殺す才能あったんだろ…!」
照島が言ったことは、IMAの情報を見て勝手なコメントをする者たちと同じで、平和のための仕事をしていたにも関わらず平然と殺そうと脅す伊吹をそう表したようだ。途端に、侑はヤクザもかくやというように顔をゆがめた。
「ア?今なんて言うた?」
「ッ、!」
顔を青ざめさせた照島は侑から顔をそらすが、侑は照島を思い切り睨み付ける。その眼光だけで人を殺せそうだ。
「…殺さねぇよ。お前らを裁くのは法だ。俺じゃねぇ」
伊吹はため息交じりにそう言って、全員に衝撃魔法を展開して気絶させようとした。もう話すことはない。
しかしその瞬間、ラウンジの入り口が吹き飛んだ。爆風が猛烈な勢いで吹き込み、ドリンクの棚から落ちた瓶が割れる鋭い音と、飛ばされた仕切りとソファーとともに窓ガラスが砕ける甲高い音が響き渡る。風がソファーや観葉植物を薙ぎ倒していく。照島たちのいるブースの仕切りも真っ二つに折れていたため、ほとんどのものが吹き飛んで見晴らしが良くなった部屋が見渡せた。
それを隙とみた二岐と母畑が逃げだそうとしたため、急いで伊吹は二人に衝撃魔法を展開する。脳震盪によって二人ともソファーから床に倒れる。
そこに、入り口から夜久が入ってくる。
「大丈夫か!?悪い、倒す位置ミスった!」
どうやら倒したテロリストの自爆によってラウンジの半分が吹き飛んだようだ。侑は倒れた二人を確認し、腕を後ろで拘束する。
「夜久さん、こっちは大丈夫っす。状況はどうっすか」
「順調。今赤葦が、」
その夜久の言葉を遮って、銃声が入り口だった穴から響いてくる。そちらを見ると、男が一人ラウンジに飛び込んでくるところだった。追いかけて入ってきたのは赤葦だ。赤葦は衝撃魔法を展開しようとしたが、伊吹たちに気づいてそれを止める。自爆を懸念したのだ。
「あいつがコンコースAでは最後だ」
夜久は止まった言葉を続ける。男はこちらに気づき、追い詰められたことを悟ったようだ。
「夜久さん、赤葦、こいつらの仲間がまだいるはずだ。多分、武器を空港に持ち込んだ奴ら。逃走手段でもあるだろうだろうから捕まえてくれ。侑、その二人連れてそこの窓から外出て警察に引き渡してこい」
「伊吹はどないするん?」
「こいつとあの男どうにかする」
「了解」
侑は体格がいい二人を軽々と担ぐと、割れた窓から建物を出て警察に引き渡しに向かった。夜久も赤葦ととともにラウンジを出てコンコースに戻っていく。そうして、ラウンジには伊吹と照島、テロリストの男だけになった。
あの男の意識を落とすと爆発するため、伊吹はあの男をここに拘束して照島とともに離れるつもりだった。侑に先に行かせたのは機動力を維持するため、赤葦たちには早く仲間を見つけてもらいたかった。
しかし男は、突然、恍惚とした表情を浮かべた。照島はそれを見て「やべ」と呟く。
めちゃくちゃになったラウンジの中、仕切りやソファー、テーブル、飲み物やグラスの破片が散らばった室内の真ん中に男は立って伊吹を見つめる。