第一話: กระต่ายหมายจันทร์−12
「Finally, I’ve met you before I die.(ついに、最期にあなたに会えた)」
男はそう言って、突然上着の前を開けた。そして胴体に巻き付いた爆弾の安全ピンらしきものをおもむろに引き抜いた。ここですぐに自爆するつもりだと分かり、伊吹は慌てて照島をソファーから床に引き倒す。その上に覆い被さるがどうしても体が余るため、咄嗟に自分のイネクシアの起動装置を照島に押し当てた。
「これに魔力流せ!」
「お、おう!」
照島はすぐに応じて魔力をイネクシアに流す。それによってイネクシアは照島に対してシールドを展開するよう更新される。伊吹は照島の正面に立つと男に向かって反作用魔法を展開した。
その直後、男は自ら爆発した。一瞬にして衝撃波と爆風がラウンジの中を吹き抜けて、散らばっていた様々なものが吹き飛んでくる。伊吹の反作用魔法によって大部分は防がれたが、やはり爆心が近すぎたため、ガラス片や仕切りの破片、ソファーの金属が腕や足を切りつけていった。血が飛び散って床に垂れる。
煙が漂い、飛ばされたガラス片が床に散らばっていく音があちこちから聞こえてくる中、伊吹は後ろを振り返る。
照島に発動したシールドによって、照島に怪我はない。
煙が割れた窓から出て行って晴れていく中、照島はシールドがなくなって恐る恐るこちらを見上げる。そして、腕や足から血を流す伊吹を見て目を見開いた。
「ッ!なんで、お前、」
「…さっきも言っただろ。お前を裁くのは法だ。逆に言えば、法が裁くまでお前は有罪じゃねぇ。たとえお前が死刑囚だろうと、俺は死刑を執行する立場じゃねぇから、お前を然るときまで守る必要がある」
「…なんで、そこまで……」
久しぶりにがっつりと負傷したため、痛みに顔をしかめながら、照島の弱々しい声に小さく笑った。なんでそこまで徹底できるのか、といったところだろうか。
「平和のために生きるってのは、そういうことだ」
「……そっか。なるほどな」
照島はどこか凪いだような表情になった。チャラそうな見た目にそぐわない表情に伊吹は首をかしげるが、照島が立ち上がって伊吹の前に立つと、少し高い位置から見下ろしてくるその瞳に息を飲む。それは、牛島や昼神と同じようなものだった。
「佐久早たちがあんたを崇拝する理由が分かった。だからさ、俺も、どうせならあんたのために生きてみる」
「は……?」
「な、俺があんたに情報流すからさ。泳がせてみねえ?」
「…命乞いにしか聞こえねぇけど」
「そうかァ?分かってるくせに」
にやりとした照島は、伊吹の心境を察している。照島の瞳を見て、伊吹は照島の言葉がただの命乞いではないと分かっていた。それだけ本気の目だった。
「…俺さ、もともと日本の会社のバンコク支社で働いてたんだけど、戦争で倒産して、そのまま帰国できなかったんだよ。日本政府に見捨てられた感じっつーか。だから、VASNA入って金がもらえるならって思った。母畑たちも、ベトナムとかミャンマーとかから逃げてきてそのまま行き場をなくした奴らなんだ。どうせ未来ねぇから」
「…、」
本当ならここで逃すわけにはいかない。たとえ直接殺したわけではなくても、この空港テロによって相当数が犠牲になったはずだ。
しかし一方で、これは端緒でしかない。情報がなければ後手に回る一方で、後手に回ればそれだけ人が死ぬ。世界にとって、情報こそが極めて重要な場面だった。
すでに大量の魔法兵器が拡散した今、どこで魔法テロが起こってもおかしくない。
「…ちょっと助けられただけでスパイまがいなんざ、惚れっぽいんだな?」
「俺もびっくり。でも、本気だよ」
そう言った照島は、おもむろに顔を近づけてくるなり、伊吹の唇をかすめた。このチャラそうな男にしては控えめだが、しかしこの場面でキスしてきたことに伊吹は驚いて呆然としてしまった。