第一話: กระต่ายหมายจันทร์−13


「男にキスとかさ。マジねーわ。なのに、全然嫌じゃねーの」

「っ、なっ、お前、マジ、何して…ッ?!」


ぐあっと顔に熱が集中するのが分かる。まさかこんなことをされると思わず隙を突かれたようなものだ。
照島はそれを見て目をパチパチとさせたあと、「ふは、」と軽く噴き出した。


「あんた、かわいーな。伊吹だっけ、名前。なんか、マジでハマったわ」

「っ、やっぱぶっ殺してやれば良かった…!」

「口わりぃぞ〜」


照島はケラケラと笑うと、持っていたイネクシアを伊吹に返してきた。それを受け取ると、照島はコンコースの入り口へと向かう。


「情報送ったらすぐ場所変えっから、俺から連絡すんね。本当は文通もありなんだけどさ」

「……いつか、絶対捕まえてやるからな」

「伊吹なら本望だな」


伊吹は迷いながらも、やはり情報を得られるならと、伊吹は照島を見逃すことにした。もちろん、そんなことを伊吹ができる立場にはない。これは完全に独断であるため、誰にも話せない。情報を得られたとしても、共有できない。
強いて言うなら、武田か烏養になら話してもいいかもしれないが、それは後で考えればよい。
照島はラウンジの外に消え、室内には伊吹1人になる。
いつの間にか空港ターミナル内の銃撃は聞こえなくなっていて、どうやら戦いは終わったようだった。


「伊吹!」


そこへ、コンコースから赤葦がラウンジに入ってきた。破壊された室内で立ち尽くす伊吹を見て赤葦は息を飲む。


「大丈夫?!」

「…ちょっと久しぶりに怪我した」


痛みが気になって、腕や足から血が流れるのを一瞥する。赤葦もそれを見て顔を曇らせた。


「伊吹に怪我させるとか…あいつそんな強かった?」

「いや、あの男が自爆したから、照島…日本人の金髪な、あいつを守るのにイネクシア貸した」

「なるほどね…で、その照島とかいうのは?」

「逃げられた」


それだけ答えると、赤葦は驚く。まさか伊吹が逃げられるとは思わなかったのだろう。


「伊吹が逃げられるなんてね…」

「…俺だって、できねぇことくらいある」


小さく言った言葉に、赤葦は失言だと思ったのだろう。怪物と呼ばれる伊吹に対して普通ではないという認識を向けることは、きっと気の遣える赤葦は「やらかした」と思うようなことだ。本当は意図的に逃がした手前、伊吹はそれ以上何も言わなかった。

赤葦は伊吹のところまで来ると、そっと抱き締めてきた。普段わりと気持ち悪いことを言うこともあるヤツだが、伊吹にとっては空気感が近い相手であることもあって、基本的には話が合う気の置けない友人だった。
伊吹を抱き締めた赤葦は、伊吹の体を自分にもたれさせて、体重をかけないで済むように配慮してくれた。


「…ごめん、いらないこと言った」

「いや。いい、けど…ちょっと、このまま」


本当は伊吹が自ら逃がしたという罪悪感もあって、伊吹はつい、赤葦の肩に頭を預けた。見た目よりも体格がいい赤葦の厚い肩口にもたれてもその体は動かず、赤葦も何も言わずに受け入れてくれていた。

佐久早といい百沢といい照島といい、そして自爆したあの男もそうだが、なぜか伊吹に対して強い感情を向けている。佐久早はVASNAの中でも原始的な目的を持っていると言っていたが、それも関係があるのだろうか。

今は何をどれだけ考えても分からないことだらけだ。

ただ一つ分かることは、こうして無実の人が殺される悲惨な出来事がこれからも起こりかねないということである。戦争が終わった今、これ以上人々が脅かされることは看過できない。

いや、相手が国家でなくなったというだけで、戦争はまだ終わっていないのだ。


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