第二話: Волка ноги кормят−2
静岡県御殿場市・富士駐屯地。
伊吹は屯所の会議室で質素なパイプ椅子に座り、長机に面して座る小隊長以上のメンバーを見渡した。たまに必要に応じて開かれる会議だが、訓練で特別なことをするときや外部からの取材・監査を受け入れるとき以外は、戦争やA24活動など特殊な作戦会議しかなかった。無駄な会議はしないのだ。
8の小隊の小隊長、中隊長である直井と溝口、大隊長である烏養、そして司令部の武田。いかつい男たちばかりでむさ苦しいことこの上ない。しかし、全員の緊張感はそんなむさ苦しさすら恋しく感じさせるほど張り詰めていた。
今回の議題、それは、国防軍にとって極めて重要なものだったからだ。
「では時間になったので始めましょう」
仕切るのは武田だ。なんでもかんでも烏養がやる必要はなく、また、情報の整理から会議を始めるため武田が適任でもあった。
「今日の議題は事前に通告した通り、我々に諜報活動の依頼が入った件についてです。依頼主は平たく言えば国連ですが…」
「…平たく言えば?」
不自然な言い方に及川が首をかしげる。武田はなんと説明したものか、といった感じで手元の資料を見ていたが、やがてそれを机に置いた。
「依頼主は国連極東停戦監視団
UNFEATS、国連東南アジア停戦監視団
UNSEATS、国連中央アジア・ウイグル・チベット停戦監視団
UNCAUTS、そして国連南アジア停戦監視団
UNSOATSの四者合同です。これに米国や英国も賛同する形で、かつ、極秘の依頼となっています」
「極秘、ねぇ…」
黒尾は「極秘」という言葉の胡散臭さに負けないような胡散臭い笑みを浮かべた。その言葉に隠された様々な思惑が透けて見えるからだ。
第三次世界大戦を終わらせたジュネーヴ終戦条約によって、国連は交戦国に対して停戦監視団を派遣した。そのうち、パキスタンより東のアジアを管轄している4つの停戦監視団が連名で依頼をしてきたそうだ。さらに、諜報機関を擁する米国と英国まで日本への依頼に賛同している。事実上、国連からの依頼と考えていい。
「独自のスパイ機関を持たない日本に対して、極めて重要な諜報活動の依頼をしてくることは異例です。米国や英国が後押しをしていることもそうですが、恐らく、VASNAの件についてなるべく日本に任せて楽をしようという魂胆でしょうね」
「あいつらいっつもそうだよな〜」
慣れたように言った木兎は、まさにPKO時代からそれをよく知っている。
「日本政府は実績の観点から喜んで引き受けました」
「ほんと、うちの国もいっつもそう」
木兎に乗じて及川もため息をついた。結局、戦前からそういうところは変わっていないのだ。武田は少し困ったように笑ってから、烏養の咳払いによって話は武田に戻る。
「…政府が引き受けた以上、我々に白羽の矢が立つのは当然です。そこで、今回は状況を整理したあと、構想段階にある分隊の組織について協議したいと思います」
まず武田は、現在分かっていることについて改めて整理した。
初めてVASNAの活動が確認されたのは第三次世界大戦中の米国でのことだった。魔法の戦争での功績を称え、神からの贈り物だと考える団体である。本部は米国のシャーロットにある。
ただの有象無象の新興宗教のような組織に過ぎなかったVASNAはやがて世界に拡大していき、そして中国で旧政権の施設を奪って佐久早などの魔法使いを量産した。
戦争が終わると、佐久早らが中心となって深圳事変と香港騒乱を引き起こし、魔法兵器を強奪。さらに、佐久早は照島たちに指示してバンコク・スワンナプーム国際空港魔法テロ事件を引き起こした。
スワンナプーム空港魔法テロ事件は死者85名という大惨事となったものの、照島を除く主犯格は全員逮捕、中には母畑など日本人数名も混ざっていた。照島は国際指名手配となっている。
現在、VASNAと名乗ったのは佐久早、古森、百沢、照島の4人だけであること、VASNA本体は沈黙していることから証拠も何もなく、各国はいまだVASNAへの規制をかけることができていない。まずはとにかく情報を集めることが必要だった。