第二話: Волка ноги кормят−3
「スワンナプーム空港魔法テロは初めて魔法がテロに使われた事件となりました。世界は恐れていた事態が起きたと魔法への批判を強めています。特にM17は魔法科兵の軍縮について世論をコントロールできていません」
魔法科兵を持つ国であるM17の国々では、危険な魔法科兵を保有することへの脅威を訴える声が日に日に高まっている。特に深圳事変によって魔法兵器が世界に拡散してしまったことは、世界中で中国や国連に対する批判を招いている。
米国や英国は、そもそも第三次世界大戦で自国魔法科兵が減ってしまったために余力はあまりないということもあるが、あまり魔法科兵を使うと世論が抑えきれなくなる恐れもあったため、そのような世論ではない日本に対して対処を望んでいるようだった。
日本では魔法科学の実績が評価されており、香港やバンコクも国防軍のおかげであれだけで済んだというのが国民の意見である。そうした状況もあって、国防軍に対して諜報活動の依頼が来たのだ。日本は日本で、国防軍の実績を高めて米国や英国に匹敵する諜報活動ができる国になりたいらしい。そういう形から入るタイプというか、かつて列強に追いつこうとしていた帝政を彷彿とさせる。
「ただ、実際問題VASNAが魔法テロ集団であるということを考えれば、米国や英国の諜報機関では太刀打ちできません。米国の魔法部隊は中国戦線で数を減らし、英国も欧州戦線で魔法科兵部隊の大半を失っています。英国で生き残った魔法科兵も諜報向きではないと聞きますから、偶然にも実戦経験の多い日本国防軍がこの役割を担うのはそこまで不自然でもないのが現状です」
「で、武ちゃん、問題は編成と任務地だよ」
及川はそこでざくっと切り出した。ここにいる全員、国際社会がどうなっているかはある程度理解している。VASNAの詳細な話も任務内容確定後で済む。今重要なのは編成だ。
かねてから諜報分隊を構築する動きはあったが、それが本格化する前に戦争が終わり、その処理に追われたことでしばらく検討が進んでいなかった。ここにきていきなり編成して実戦となるとなかなか大変だ。
「編成については僕と烏養大隊長とで検討しました。大前提として、分隊活動中に有事となっても対応できること、一方で、分隊が直接攻撃的な工作活動を行う火力を有していることです」
「国土防衛能力を維持しながらってことね」
当然のようにこの前提は全員理解していた。むしろ、そのうえでいったい誰が引き抜かれるのか、それが目下最大の懸案だったのだ。スパイ活動は数日でできるものではない。長期間外れるため、主要メンバーであると困るわけである。しかし有効かつこの分隊が即応部隊としても活動できる必要もある。この匙加減が問題だった。
「まず隊長ですが、これは朝倉大尉にお願いします」
「げっ…」
リーダーを振られるとは思わず、ついそんな声が漏れてしまった。途端に黒尾や木兎が噴きだす。
「あからさますぎだろ伊吹」
「よっ!朝倉隊長!」
「はっ倒しますよ」
からかう二人に拳を向けながら黙らせる。武田は二人が黙ったのを見てから発表を続けた。
「副隊長は松川君。以下、月島君、天童君、木葉君、昼神君、宮侑君、そして牛島大尉となります」
「理由聞かせてもらえますやろか」
即座に理由を尋ねたのは北だった。第八小隊”Fox”において侑はかなり重要な立ち位置にいる。また、声を出さなかったが諏訪もそうだろう。理由が気になるのは全員同じである。
「隊長の朝倉大尉は、通常編成で率いる立場にないため穴を開けないという意味で隊長に相応しいと考えました。松川君、月島君、木葉君は小回りが利く魔法を使いますし、語学を含め素質が高い。天童君と宮侑君は諜報向きの魔法を使います。Midnight、Silent両方に属する昼神君や、天童君、宮侑君、月島君は分隊参加経験があることも即戦力として期待しています。牛島大尉は火力要員でもありますが、分隊が司令部を離れて独自に作戦を練る場面があることから現役小隊長の見地を求めています。副隊長にしなかったのはいざというときに指揮権を持つ人間を離すためですので、松川君と朝倉大尉はなるべく一緒に行動しないように、朝倉大尉と牛島大尉はなるべく近くで行動してください」
「うーん、まぁ編成してすぐに長期の単独行動をするって意味では、即戦力としてある程度主要な隊員は必要になるよね。侑君と昼神君くらいは仕方ないんじゃない?」
「せやなぁ…ま、静かになってええか」
サバサバと言った北に笑いが漏れる。優秀だが扱いに困る兵士なのは確かだ。
「…え、てかそのメンツ俺が指揮執るんすか」
さらに伊吹のそんな声が落ちると、笑い声が増して会議室内に響いた。他人事と思っている小隊長たちに怒りが沸くも、そういえばメンバーには牛島がいるな、と思って隣の席に座る牛島を見遣る。
「…俺を頼ってもらうのは構わないが、決裁権は伊吹にあるぞ」
「うぐ…」
牛島は視線に気づき、伊吹の意図を察して先回りしてきた。どうせなら牛島に判断してもらおうと思っていた伊吹の目論見が外れる。頑固な男であるため、こう言うからには肝心のところで助けようとはしないだろう。
伊吹はため息をついて、「了解しました」とだけ武田に返した。