第三話: the Monster from Tikrit−5


車は大きな橋に入り、巨大なティグリス川を渡り始める。とはいっても水量は少なく、広大な川幅を余らせていた。対岸の田園地帯を抜ければ空軍基地に出る。バンの中に全員がまとまって乗車していたため狭苦しい。


そうして橋を渡り終えたときだった。突然、地下で感じたのと同じ悪寒を感じた。全身が粟立つその感覚は後ろからで、咄嗟に「牛島さん後ろ!」と叫んだ。

先ほどは頓珍漢だった牛島だが、すぐに伊吹の意図を理解すると、扉を開けて後ろを睨みつけた。走行中に扉を開けたことで他の車からクラクションが鳴らされたが、その直後、強い衝撃波が車を襲い、他の車も急ブレーキをかけて互いにぶつかった。伊吹たちが乗る車にも乗用車が衝突し、体が前につんのめる。

無事に牛島が衝撃波を相殺したが、後ろから放たれた衝撃波が複数台の車を吹き飛ばしたため、悲鳴や爆発音が響く。


「前へ!急いで!」


伊吹はアラビア語で叫ぶ。テロだと判断した運転手の警官はすぐに車を発進させた。止まった車の合間を猛スピードで駆け抜ける車の後ろから、第二波の気配がする。伊吹は透視の力を使い、敵の魔法使いの位置を突きとめた。伊吹の爆発は、遠隔地で発現できる。もしかしたら、この透視と組み合わせれば正確な場所で発動できるのでは、と考え、敵の位置を正確に頭の中に浮かべながら爆発を起こした。

直後、後ろから爆発音が響いた。風圧で住宅のガラスが砕け、悲鳴が上がる。


「今の伊吹!?」

「はい、敵の座標突きとめてそこで爆発させました」

「どんどんものにしてんじゃん…」


使いこなす伊吹に驚く及川は、後ろを振り返る。煙に包まれる道路を見て、「多分クリア」とだけ伝えた。


やがて車は突っ込むように基地に入った。運転手が叫ぶように検問の軍人に話すと、車は基地の中に入っていく。そのまままっすぐ滑走路に入ると、外国人たちを乗せる輸送機が見えた。国旗はトリコロールだ。透視をすると、建物内部からこちらへ銃口を向ける者が確認できた。どうやら敵は、伊吹たちを生きてティクリートから逃がすつもりはないらしい。当然だ。こんなことが露見すれば大変なことになる。

伊吹は再び遠隔魔法によって、銃口を向ける男たちがいる建物の部屋を爆破した。脳内でイメージした通りの場所が爆発し、男たちの怒声が聞こえる。


「あちらさんは俺たちを露骨に殺しに来てるね…ッ!」

「熱烈な見送りだこった」


運転手が爆発音に驚いて揺れる車の中で、及川は伊吹の座標攻撃の多さにそれだけの数の敵がいるのだと分かり苦々しく笑う。溝口はそれをジョークで返すが、乾いた発砲音が繰り返し響き始めて舌打ちをする。

伊吹はすぐに索敵を再開し、発砲してきた敵を探す。空軍基地全体を俯瞰するように見るため、あえて目を閉じる。物理的な視力を封じると、より鮮明に俯瞰図が見えた。本当になんでもできるのだな、と自分のことながら感心しつつ、基地の中の倉庫に敵を発見する。倉庫ごと吹き飛ばすよう爆発魔法を発動すれば、中の火薬に引火したのか盛大な爆発が発生した。爆風で一瞬車体が浮く。「いてっ!」と木兎が天井に頭をぶつけていた。
見たところ、敵は全員軍服ではなく私服にスカーフを巻いており、テロリストに扮していた。あの地下施設に関わっていた者たちが正体を隠すためにテロのように見せかけているのだろう。


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