第二話: Волка ноги кормят−6


現在、諜報活動型横断編成分隊Secretは西アジアに分散して活動している。一応この分隊の隊長である伊吹は牛島とともにウズベキスタン共和国の首都タシュケントに来ていた。
副隊長の松川は天童とシンディスタン共和国の首都カラチに、月島と木葉はジョージア国の首都トビリシに、昼神と侑はトルコ共和国のイスタンブールにいる。照島からもたらされた情報通りの配置だった。

伊吹は照島から得た情報を、武田だけに報告した。その際、スワンナプーム国際空港でのことも包み隠さず話し、その上でどうするべきか判断を仰いだ。少しは怒られると思っていた伊吹だったが、武田は意外にもそうしたことはしなかった。
「君がただの命乞いを見抜けないとは思えません。そうではないと思える何かが照島という人物にはあったんでしょう」という言葉はその通りで、伊吹は照島が本気で伊吹のために動くだろうとあのとき思ったのだ。

武田はその伊吹の判断を尊重すると言って、得られた情報を武田が独自のルートで入手した体裁にすることでSecretの活動の根拠にすることを許した。照島とコンタクトした際にはすべて報告することだけを条件に、武田は全面的に伊吹を信頼してくれている。
ただ、このことが正しいかというとそうでもないのは伊吹も武田も分かっているため、公にはせず二人の間に止めている。

そうして伊吹は隊長としてSecretを二人ずつ分散させる采配を取り、今に至る。ちなみに牛島と一緒になったのは偶然だ。
くせ者の天童をうまく扱えるのは松川であることと、最も「スパイらしい」力を持った二人には今回最重要な相手である古森のいるカラチを担当させたいということから、松川と天童はカラチに派遣した。昼神と侑はこれまでMidnightで活動経験があるため、西アジアのVASNA本拠地であるイスタンブールの詳細な調査を頼んだ。月島は分隊では唯一の二次入隊組であることもあってフォローが必要だが、フォローする力として最も優れているのは木葉であることや、この二人が性格的に合うであろうという意味もあって、二人にはトビリシに向かってもらった。
結果、残ったのが牛島と伊吹だったということだ。

組み合わせを考える際には全員を集めていたが、この組み合わせに異論はなかった。牛島もまた癖が強いため、牛島とうまくやれるのは同じ小隊にいる天童だけだったが、天童には松川と組んでもらうことが望ましかったこともあり、伊吹が牛島とペアになることは自然な流れだったのだ。

左ハンドルの外車の中、牛島は窓から吹き込む乾いた風を浴びながら慣れたように運転する。もともとイラクでも国連の車の扱いに慣れていたこともあり、特別なことではないのだろう。

それにしても、と伊吹は改めて左に座る牛島を眺める。


「…どうかしたか」

「や…なんかこれでサングラスしたらターミネーターっすね」

「そうか。白布に選んでもらったんだが、川西にも同じことを言われた」

「あいつの趣味か…」


白布は牛島に憧れを抱いているため、ヤツの趣味が先行したらしい。もちろん、黒い革ジャンは質も良さそうで、戦闘になっても破れることはないだろう。戦い方が大仰な牛島に適している。
何より、とても似合っているのは確かだった。

信号で車が止まる。この国をはじめ旧ソ連諸国は歩行者に優しくないため、車が信号で止まることは少し珍しい。「やはり暑いな」と言って、牛島は袖を捲った。
革ジャンの前を閉じて、ダークパープルのTシャツが胸板の逞しさを襟の内側で強調しているような堅苦しい格好なのに、袖を捲って革手袋に隠れた手首まで太い腕が晒されているのはギャップを感じさせる。
車が発進して右折すると、ハンドルを回すその腕に筋が張って浮かんだ血管が際立つ。手袋から出た指はゴツゴツとしていて武骨なのに、ハンドルを送る仕草は滑らかだった。


159/293
prev next
back
表紙へ戻る