第二話: Волка ноги кормят−9
そうして二人は無事にその場を離れ、来たときと同じように地下鉄で逃れることができた。ホテルに戻れば、エントランススタッフが慌てて無事を確認してくれて、親日国であるこの国の人に申し訳ない気持ちになったが、それはいったん無視した。
その後伊吹と牛島はホテルのレストランで昼食を取ってから部屋に戻り、自分のパソコンで5日後の航空券を検索した。
「5日後、タシュケント発の国内線はヒヴァ行きのみ、国際線はモスクワ、イスタンブール、ドバイだけっすね。今タシュケントに毎日運行している路線は存在しないんで、やっぱイスタンブールに帰るのが一番あり得る選択肢だと思います」
ホテルの部屋のシッティングスペースにあるソファーに向かい合って座りながら、伊吹はパソコンで調べたことを報告していた。先ほどホテルで得られた情報と合わせ、猯と雲南が5日後にイスタンブールに向かう可能性が一番高いことを突き止めた。
「当日の朝、ターゲットが宿泊しているホテルで見張って、出てきたら追うか?」
「もしこの5日間でヤツらに接触できなければそうします。でも、それまでにコンタクトを取りましょう」
「この町中でか。人質を取られるリスクがあるぞ」
「VASNAは欧州でテロを計画していると情報がありました。タシュケントから欧州への直行便はミュンヘン路線だけっすけど、ミュンヘン行きは3日後っす。次のイスタンブール行きは2日後。奴らのタシュケント滞在期間が長すぎません?」
「目的があるということか」
「はい。何かまだこの街に目的があるんだとすれば、欧州でのテロ計画に関する情報が掴めるかもしんねっすから」
「分かった。今日はどうする」
「今日はミナールでの爆発を警戒して動かねぇんじゃねっすかね」
「それもそうだな」
とりあえずこの5日間の目処が立てばしばらく暇になる。
明日からはレギストラーツィアに登録されたホテルで張り込みとなるため暇というわけにはいかないが、今日はもうやることがない。
仕方なく二人はホテルのジムでトレーニングをして過ごし、たまにテレビでミナールの事件の報道を確認しつつ、レストランで夕食を取って部屋に戻った。交代でシャワーを浴びてしまえば、あとは最後に残ったやることのためにパソコンを開く。
時刻は22時、これから各都市と繋いで報告をし合うことになっている。
タシュケント時間22時、まず同じ時間帯であるカラチから松川がつながった。国防軍の安全な回線で繋いでいるためある程度機密情報をやりとりできる。
『おっす、松川でーす』
「どうも。順調っすか」
『微妙かなぁ』
松川は特に隠しもせずそう言った。何も進んでいないわけではない、といったところか。
続いて、21時のトビリシから木葉が繋がり、さらに20時のイスタンブールから昼神も接続してきた。とりあえず全員が無事にいるようで、伊吹は密かに安堵の息をついた。
「じゃあ手短に報告済ませます。タシュケントでは猯望、雲南恵介の滞在ホテルを突き止めたので、明日から張り込みます」
『おお、さすが朝倉だな』
木葉が手放しで褒めてくるため、「レギストラーツィアがあるんで」とだけ返した。そしてすぐに松川に振る。
「松川さんどっすか」
『カラチの貿易港で魔法兵器搬入の痕跡は見つけたから、これから古森追いかける予定』
「了解です。木葉さんはどうですか」
『トビリシは特に成果なし。百沢のでかさなら目撃情報あると思うんだけど、英語通じにくくてさ』
「分かりました。指名手配っすからね、しんどいと思います。昼神はどうだ?」
『現地の日本人会が最近復活したらしいからコンタクト取って、桐生と臼利の情報集めてるとこ。敵国だったし、まだイスタンブールの日本人は少ないから見つけやすいとは思う』
「分かった。なんか困ったこととか不足はありますか」
まだ初日だ、どこも決定打には至っていない。伊吹たちがこれほど早くターゲットに至ったのは、間違いなくこの国に特徴的なレギストラーツィアですぐに滞在記録を特定できたからだ。特に巨大なカラチとイスタンブールは骨が折れるだろう。
何か必要なものがあれば一括して伊吹が手配する予定だったため、何かあるか各自に聞いてみるが、三人とも首を横に振った。
「了解です。それでは引き続き健闘を祈ります」
最後に挨拶だけして回線を切る。聞いてきた牛島はベッドの上からこちらを振り返る。
「やはり進捗に差が出そうだな」
「はい…むしろ、どこかが早く成功すると、他の地域に異常が伝わって警戒を強めさせる可能性がありますね。俺たちも他の様子を窺って動いた方がいいかもっす」
「そうだな」
ただ戦うだけなら楽だった。しかし組織で動く相手に関する情報が乏しいと、こちらも後手に回らざるを得ない。他の都市での進捗にある程度合わせるためにも、見張りはしつつ5日後ギリギリまで待つ方がいいだろう。