第三話: Qutadğu Bilig−1
第三話:
Qutadğu Bilig
ウズベキスタン共和国・タシュケント特別市。
ヤッカサライ地区のホテルに移った伊吹と牛島は、ここから片側3車線の大きなミラーバード通りを挟んだホテルを一日中監視していた。このホテルに猯と雲南が滞在しており、その動きを追うために24時間張り込んでいた。
まずこのホテルに移ってから伊吹が向かいのホテルをくまなく透視し、2人の存在を確認。そしてそこから、ホテルの正面玄関を常に監視して人が出てきたら透視をしていた。地味だが大変なもので、牛島と交代で見張りをした。動きがあればすぐに伊吹が透視を展開する。
そうやって一日を過ごしたが2人は常に自室におり外に出る気配がなかった。
やがて時刻は定例報告の時間となり、昨日と同じく各都市を回線を繋ぐ。
「こちら朝倉、回線良好っすか」
『こちらカラチより松川、問題ないよ』
『イスタンブール、昼神、大丈夫』
『トビリシより木葉、回線良好』
「了解です。じゃあ報告します。ターゲットの滞在するホテルの向かいに移って一日監視しましたが、今日は動きありませんでした。しばらく監視を続けます。以上」
伊吹がまず結果を報告すれば、あとは昨日と同じ順番となる。松川がそのあとをついで口を開いた。
『今日はDPFPのカラチ事務所で働いてるメンバーにアタックしたんだけど、天童が洗脳でうま〜く引っかけた。やっぱ、UNSOATSのメンバーにも一枚噛んでるのがいるっぽいね』
すると、画面の中に天童が割り込んできた。松川を押しのけるように2人で映る。慣れたように松川は天童に場所を空けてやっていて、やはりこの2人で組ませて正解だったと思った。
『やっほ、ちなみにまっつんがナンパした女とこれから濃密な夜だって』
『あ、そうそう、UNSOATSのVASNAメンバーが特定できたから、その女の子とこれからこのホテルで会う約束してんの』
『まっつんマジすげェ』
『松川さすがだなぁ…』
天童がケラケラと笑って話した内容に、木葉の感心したような声が被さる。外国人女性相手にナンパを成功させる手管はさすがだ。こうした松川の特性も期待してカラチに送ったが、引っかけるのが早すぎる。
「松川さんの色仕掛けスキルすげぇっすね」
『大丈夫、伊吹も天然で色仕掛けスキル持ってっから。ねぇ、昼神?』
純粋に褒めた伊吹だったが、松川は含みのある笑みで昼神に呼びかけた。イスタンブールの画面に映る端正な顔は松川の言葉に苦笑した。
『天然モノだからいいんですよ、伊吹のは』
『いやなんの報告だよ』
その会話に木葉は冷静にツッコミを入れた。同じくトビリシからは月島のものだろう咳払いが聞こえる。松川は肩をすくめてから「こっちからは以上、これから情報仕入れたらまとめるね」とだけ述べた。そうして順番は木葉に移る。
『トビリシでの監視カメラのハッキングは順調。百沢の移動ルートは追えてる。月島がパズルみてーな映像の時間差を地図と照らしてくれてっから、潜伏場所とか目的地の地区も目星がついたかな。絞れば絞るほど時間短縮できるから、明日はもうちょいいろいろ分かると思う』
監視カメラの映像を解析し、どの時刻にその場所を百沢が通ったのか判別することができるが、問題はそこから行動ルートをつなぎ合わせていくことだ。月島はその時間差を地図と照合して、より精密に百沢の移動した痕跡を線に繋げてくれている。木葉の言うとおり、情報が絞れれば絞れるほど所要時間は短くなっていく。
「分かりました。月島もさすがだな」
『…あ、月島照れてる。伊吹〜、月島照れてるぞ〜』
背後から「やめてください」という声が聞こえた。あいつもあれで可愛いところがあるのだな、と思いつつ、最後に昼神に視線を向けた。イスタンブールの画面では、順番を察した昼神が少し侑と喋ってから報告を始めた。
『イスタンブールでもホテルを移して透視による捜索中。桐生、臼利、猯、雲南がこの街に暮らしていること、その地区まで確かめたから、今はその地区でひたすら地道に透視で確認してるところ。一晩かかるかな。見つけ次第、尾行してVASNAの本拠地を割り出すよ』
「分かった。侑の目は大丈夫そうか?」
『大丈夫やでぇ〜、瞳を閉じれば伊吹の顔浮かぶわ〜』
「大丈夫じゃねぇな」
伊吹がそう言うと各都市から笑いが聞こえる。それぞれの力で、各都市順調に進んでいるらしい。まだまだ真相までは遠いが、確実に、必ず守れるものは守る。テロが起こる前に、まずは猯と雲南から情報を聞き出すのだ。