第四話: Gott ist tot−5


大使館の中で明暗と分かれたあと、伊吹はSecretが待機していた会議室に移動してそこで簡単に打ち合わせをした。基本的に向こうが行動を起こしたらこちらも作戦行動に入るため、ベルリン市内のホテルですでに大まかな方向性は決めていた。ある程度は伊吹の予想通りであったこともあり大きな変更は生じなかったが、最新の警備体制などを含めて割り振りを確認することにした。

机にベルリン市内の地図を天井の映写機から投影して、それを全員で囲むように立つ。


「大きく割り振りを変えることはしません。確認と情報共有を行います。まず連邦首相府ですが、今回はイタリア軍とスウェーデン軍から魔法科兵が派遣されています」


伊吹はそう言いながらシュプレー川の蛇行した部分を示した。
ミッテ区を東西に流れるシュプレー川は蛇行しており、区内だけで8回も曲がる。川はミッテ区の南寄りに流れ、その中央部で北に向かって運河が伸びている。そのため、ミッテ区のやや南寄りの中央でシュプレー川は逆さまのY字を描くような形になっている。
北方向に運河が伸びる場所はシュプレー川が北方向に向かって婉曲する部分である。そこから西に向かっていくと、川は南へと蛇行していく。蛇行した先でティーアガルテン公園にぶつかるとだんだんと今度は再び北へと婉曲する。
この公園の北西、シュプレー川が北に蛇行する部分にある地区をハンザヴィアーテルといい、Sバーンのベレヴュー駅がある。
運河から東へと逆に進んでいくと、一度南に向かって蛇行してから北へと曲がり、今度は大きく南へと川は伸びていく。この南に大きく向かっていく部分には巨大な中州が存在する。この中州は「博物館島」という地区で、世界遺産に登録されていた。

連邦首相府が立地するのは、運河が北に伸びていく逆Y字の接続点であり、川が北に蛇行してできた半島のような場所だ。綺麗に半円を描いて蛇行するため、その半島ははっきりとした形をしており、付け根部分は幅にして600メートルほどある。この部分にはパウル・レーベ・アレーという道があり、この道から北側一帯に連邦首相府などの建物があった。


「パウル・レーベ・アレーから北側、シュプレー川の蛇行によってできた半円状のエリアが今回の首脳会談の会場である連邦首相府です。このエリアは封鎖されており、ドイツ軍、イタリア軍、スウェーデン軍が配備されています。ここにかかる3つの橋、モルトケ橋、グスタフ・ハイネマン橋、皇太子橋はすべて通行止めです。また、エリア東側にあるパウル・レーベ・ビルと対岸の政府庁舎を繋ぐ空中廊下と、西側の連邦首相府と対岸を繋ぐ空中廊下も封鎖しています。エリアを南北に貫く地下道およびUバーンU55も閉鎖しています」

「まァ当然だよネ」


ここまでは当然の警備だ。天童はわかりやすい地形とわかりやすい警備体制にうんうんと頷く。


「今回、ティーアガルテン公園と、ベルリン動物園・水族館も閉鎖されているようです。恐らく、この広大な空間で戦闘を可能にするというか、誘導できるようにという配慮でしょう」

「俺たちへのか?」


巨大な公園が閉鎖されていることに木葉は自分たちの戦闘のためかと驚く。伊吹は苦笑して否定した。


「いえ、公園のすぐ北側にいる魔法科兵のためです。テロリストが連邦首相府を襲ったら、まずは公園に誘導して戦闘するそうです」

「ホンマにできんのかぁ〜?それ〜」


魔法を使うテロリストの誘導などできるのか、という侑の言葉はもっともだ。恐らく難しいだろう。しかし彼らも軍だ、魔法を使うのは同じであるため、難しいが不可能ではないだろう。


「まぁ俺たちも使わせてもらえばいい。そんでその俺たちの動きだけど」


伊吹は指を動かして地図の縮尺を少し広げる。机にはベルリン中心部、ミッテ区南部一帯が映し出された。


「ブランデンブルク門を中心に地域を分けて警戒するのは説明した通りです。恐らく事が起きれば鉄道は運休になるはずですが、それでも外出制限くらいで人出そのものはあまり変わっていないと思います」


まず大まかに、Secretは二人一組となって行動し、ミッテ区内に分散する。どこで何が起きてもすぐ行動できるようにするためだ。
連邦首相府はドイツ軍と、イタリアとスウェーデンの魔法部隊が警護しているため近づけない。恐らくこの施設の警備だけなら伊吹たちがいる必要もないだろう。ティーアガルテン公園内も警戒する必要はない。
まずティーアガルテン公園の南にある大使館街と、その東にあるポツダム広場というビジネス街を伊吹と牛島が担当する。ここをエリアAと呼ぶ。ポツダム広場の北に行くとブランデンブルク門があり、この門から西はすべてティーアガルテン公園、北は閉鎖されている国会議事堂と連邦首相府エリアがある。ブランデンブルク門から東はまっすぐにウンターデンリンデンという大通りが東へと伸びるが、この通りから南側一帯を月島と木葉が担当するエリアB、北側一帯を侑と昼神が担当するエリアCとしている。エリアCは博物館島のベルリン大聖堂やペルガモン博物館、シュプレー川の北にあるハッケシャーマルクト駅などを含む。エリアDはベルリン中央駅周辺からハンザヴィアーテルにかけての地域とし、松川と天童が担当する。


「ティーアガルテン公園やエリアDは警備の可視化魔法の範囲に入っているはず。侑はブランデンブルク門より東、俺は南の広域を透視して監視する。何か質問はありますか」


ほとんどは事前に決めてあった通りだ。しかし、昼神が手を上げた。視線を遣って促すと、昼神は口を開く。


「桐生、臼利の2名が来てるはずだけど…見つけて投降の気配がなければ殺すよ。いいね」


それは質問というより確認だった。臼利はともかく桐生は伊吹に強く依存した結果がVASNAでの活動になった。それに一応の配慮を見せているのだろう。一瞬伊吹は言葉に詰まったが、「現場判断に委ねる。俺に遠慮はいらねぇ」とだけ答えた。これは任務だ。そして、人の命がかかっている。伊吹の感情など、ここでは重要ではなかった。


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