第四話: Gott ist tot−7


ティーアガルテン通りからブダペスター通りに入ればすぐに動物園駅に到着する。この僅かな距離だけ車だったのは、この先が交通規制で渋滞しているためだ。すでにG10にともなう交通規制が引き起こした渋滞はミッテ区周辺では激しくなっている。
車を降りて人で混み合う駅へと歩き出す。路面駐車場の料金はそこそこするが、国連の負担のため気にしていない。


「そろそろ首脳会談が始まる時刻っすね」

「そうだな。連邦首相府あたりには近づけないから、街ごと破壊しようという魂胆か」

「それだけで済むとも思いませんけどね」


午前10時、首脳会談の始まる時刻となった。空は快晴で、夏らしいからっとした気温ときつい太陽がベルリンを照りつける。人々は短い夏を謳歌しようと、半袖のラフな格好で外に繰り出している。子供連れやカップル、高齢の夫婦など様々な人々が笑顔で歩いていた。
特にここ2年は世界大戦によってとても遠出できるようなものではなかったこともあり、海外旅行に行く人々が非常に多いようだ。ただ、相変わらず世界は戦後不況の中にあり、余裕がない人々は近場で済ませている。

こんな平和な夏の一日の裏で進んでいる事態がより一層末恐ろしい。

動物園が閉園しているため普段よりは人出が少ないであろう動物園駅に入り、Sバーンの切符を買って打刻機に通し、ホームに上がる。ちょうど電車が来たところで、黄色い車体の上部と下部に赤いラインが引かれた電車に乗り込む。郊外方面だが、そこそこ人がいた。立ったまま二人は高架の上を走行する電車内から街並みを眺める。

第二次世界大戦の主要な交戦国のうち、首都が徹底的に破壊されたのは日本とドイツくらいだ。そのため、ベルリンも東京も復興の過程が似ており、どことなく風景が東京を彷彿とさせる。この高架が市街地を突き抜けて在来線が走る風景などはまさにそうだ。
Sバーンはベルリン動物園駅から西に進み、ザヴィニー広場駅を過ぎてからベルリン=シャルロッテンブルク駅に到着した。目当ての駅に着いて、二人はホームに出る。日本ではそうそうないが、欧州ではホームに屋根がないことが多く、この駅も一部に屋根があるものの端の方は野ざらしだ。扉から出た途端にきつい太陽光を浴びて、伊吹は目を細めながら主観透視に切り替えた。
先ほどからちょくちょくゲストハウスを見張っており、電車を降りる直前も見ていたが、なんとまさに今、ゲストハウスにいた男は建物の出口に向かっていた。間一髪だ。


「ターゲットが建物を出ます。急ぎましょう」

「了解」


伊吹はそう言ってから、ポケットからイヤホンを取り出しスマホ端末に接続する。いつも使っているインカム無線はさすがに私服では使えないため、イヤホンをして通話しているような体裁にして連絡を取ることにした。牛島はすでに大使館を出たときからイヤホンをしていたが、伊吹は邪魔なのでギリギリまでしていなかった。


「こちら朝倉、聞こえますか」

『聞こえるよ〜』


複数人の通話アプリであるため、真っ先に返事をした昼神に重なるように他のメンバーからも同意が返ってくる。混み合わないよう、チームを代表して喋る人物が決まっており、今も呼びかけには昼神と木葉、松川が返事した。


「これより魔法兵器を所有しているとみられるターゲットにコンタクトを取ります。場合によってはそのまま戦闘となります」


これは始まりの合図のようでもある。各員からの返事を聞いたときには、二人は駅の北側に出ていた。
高架となった駅の下を通る大通り、周辺にはちょっとした繁華街のような光景。


「…中野みてぇっすね」

「確かにな」


その光景が少し東京の中野に似ているため思わず呟く。牛島もつい答えていた。
一瞬無駄口を叩いてしまったため、伊吹は透視に集中する。男はゲストハウスからこちらに向かっている。駅から右手の方に出てくるはずのため、伊吹は駅出口から右側に見えている駐車場に向かった。
後ろから牛島もついてくるのを確認してから、青信号で大通りを渡って駐車場に入り、一階部分が商店になった同じ高さの建物が並ぶ前を歩いて行く。ここにアーケード商店街の入り口があったらいよいよ中野じみてくるだろう。


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