第四話: Gott ist tot−10


上空に牛島とともに浮き上がり東を目指す。
眼下に広がるベルリン都心部は、あちこちから黒煙が上がっていた。すぐ下に広がるのは広大なティーアガルテン、そのすぐ東にはブランデンブルク門があり、門から伸びるウンターデンリンデン通りやその先の博物館島からも煙が上がる。うっすらと悲鳴も聞こえた。
一際激しく戦闘が起きているのは、ティーアガルテン北側、シュプレー川が北に蛇行してできた半島のような部分にある連邦首相府と、川の対岸にあるベルリン中央駅、そしてティーアガルテン内と、公園の北西にあるベルビュー駅周辺のハンザヴィアーテル地区だ。

また、公園の南東にあるポツダム広場駅周辺の高層ビル街でも新たに爆発が起きたのが見えた。あの辺りまではエリアA、伊吹たちの担当だ。

今はティーアガルテン、およびその南側の大使館街の直上に差し掛かっており、直下の様子を見てみると、どうやらイタリア軍が押されている様子が確認できた。戦闘によって起きた爆発は公園をどんどん南へと進んでいく。このままでは大使館街に到達してしまう。
しかし、前方のベルリン最大のオフィス街であるポツダム広場も甚大な被害が出ているように見えた。


「っ、くそ、牛島さん、大使館に降りるので車でポツダム広場に向かってもらえますか」

「分かった」


本当はブランデンブルク門に降りる予定だったが、他のエリアに助太刀している余裕はない。伊吹はすぐに、元いた日本大使館に向けて降下していった。


「こちらエリアA、俺はティーアガルテンのイタリア軍に加勢する。牛島さんもポツダム広場での戦闘を開始する。すぐにはヘルプには行けねぇっす」

『こちら昼神、了解、気をつけて』

『こちら木葉、5分は持つけどそれ以上はきつい』


ウンターデンリンデン通りで戦闘している木葉と月島は苦戦しているようだ。しかし牛島はイヤホンの中程についているマイクを口元に近づける。


「問題ない、5分あればポツダム広場は片付く。俺がエリアBに行く」

『さすが牛島、頼むわ』


ここで本当にできるのか、などと野暮なことは聞かない。牛島はできないことは言わないのだ。
大使館の敷地に降り立つと、職員たちが慌てて避難しようと車に乗り込んでいるところだった。その中の1台に近づき、伊吹は強引に運転席に乗ろうとしていた男性を引き離す。


「日本国防軍です。緊急事態にともない当該車両を接収します」

「なっ、は?!」


驚く男性を無視して牛島を乗せる。すぐに牛島は扉を閉めるなり、刺さっていたキーを回して急発進した。駐車場の職員たちは悲鳴を上げて飛び退く。
呆然と走り去った車を見送ってしまった職員の男性は、慌てて伊吹に詰め寄る。


「ちょ、何をしているんですか!?あなたはいったい、国防軍って…」

「日本国防陸軍第1魔法科大隊所属、一等陸尉の朝倉伊吹です」


すっと男性に目を合わせてやれば、男性はびくりとして後ずさった。さすがにここまで名乗れば、IMAの情報と照らして伊吹がどんな存在か理解したらしい。
もういいだろうと伊吹は再び足下に風気魔法を展開すると、大使館の建物をジャンプするように飛び越えてティーアガルテンへと進む。

しかしその直後、公園の木々を薙ぎ倒して爆発が連続して発生した。爆発は列をなして園内から大使館へと向かい、そして大使館の建物の一部を吹き飛ばした。

轟音とガラスの割れる甲高い音とともに、煙が一瞬で大使館を包み込む。風に乗ってすぐに煙は晴れていったが、一部が崩れ落ちた建物を見て伊吹は心臓が竦み上がる。大使は無事なのだろうか。伊吹は即座に崩れた部分から大使館内に入った。
入るとオフィスルームのようで、雑多なデスクが並ぶ部屋は照明が消えて薄暗く、埃と煙がうっすらと立ちこめて書類が大量に舞い上がっていた。床にはファイルや書類が散乱し、職員たちが悲鳴や怒号を上げて駆け回っている。天井のパネルが垂れ下がっているところからは漏電による火花も散っていた。


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