第四話: Gott ist tot−14


伊吹が話したことの理由が思い当たらず、つい桐生は臼利と揃って首をかしげてしまう。情報を得るためだろうか。
伊吹は少し言いづらそうにして、顔を背ける。しかし、息を軽くついて再びこちらを見上げた。


「雲南たちのことを聞いて、理不尽だと思った。俺がいなければ、お前らはきっと、少しずつ日本で立ち直ってまとな生活送れてたかもしんねぇのに」

「それは…」


まさかそんなことを伊吹が考えているとは思わず驚くが、しかしそれも当然かと納得する。自分のせいで狂った人間を見るのは、誰だっていい気はしないだろう。


「俺自身を責めるつもりはねぇ。けど、できることはしてやりてぇと思った。何にせよお前らは法に裁かれるべきだけど、せめて、チャンスくらいあってもいいんじゃねえかって。甘い考えってのも、単なるエゴだとも分かってる。自己満とも言える。でも、俺は」


葛藤をしていたのだろう伊吹は低く抑えるような声でそう話すと、意志の強い目で桐生の目をまっすぐに射貫いた。その凜とした強さに、桐生は目を見開く。


「俺は、助けを求める人がいるなら助けたい。世界の平和のための仕事はできなくなった、でも、その代わり俺には直接的に人を助ける力が与えられた。それなら、俺に助けを求める人をすくい上げたいって、そう思う」


NGOを介して平和に携わっていたのは知っている。魔法使いになってしまったこと、立場上、国防軍を離れることができないこと、それらを鑑みれば、もう伊吹は今までのようなことはできないだろう。それでも誰かのためになりたいと願った結果が、直接助ける力を持つのだから直接誰かを助けようという思考なのだ。


「あんたも、猯も雲南も臼利も、俺に助けてもらいたかったんだろ。それなら、俺は最大限それに応じる。猯や雲南と同じく、何かしらリニエンシーの形を取れば、無期懲役にはならねぇはずだ」


直接誰かを殺していたわけではない桐生たちだが、こんな事態を引き起こした責任がある。日本で裁かれるとすれば、死刑か無期懲役だろう。それを、なんとか出所できる量刑にしたいと伊吹は言ってくれていた。
この期に及んで、伊吹は桐生たちを助けようとしてくれている。

こんなことをしておいて、伊吹に縋るのはあまりに虫が良すぎるのではないか、桐生の良心はそう訴える。しかし、隣で呆然と涙を流したままの臼利を見て、考えを改めた。今ここで桐生が伊吹の申し出を固辞しても、それは臼利もそうすることになる。そうすれば、桐生と同罪で臼利も処分されるだろう。


「…状況は、分かってんだろ」


桐生のこの考えは伊吹にも分かっているらしい。桐生は殊勝な態度ながらやはり強かな伊吹に思わず苦笑してしまった。


「…臼利を助けられるんは俺だけっちゅうことか」

「あぁ。だから諦めて手を取れ」

「…分かった。あんたに従う。なんでも言っちくれ」

「…八さん…?」


ついに頷いた桐生に、臼利は縋るように伊吹を見たあと、桐生を見上げる。伊吹よりは身長差がなくて近い目線は、高校時代からずっと、桐生を尊敬してくれた。脳裏には、同じく笑い合った猯と雲南も浮かぶ。


「臼利、俺はせめてお前に元の生活に一刻も早う戻っち欲しいんちゃ。だけん、もうちょい付き合っちくれんか」


目を見開いた臼利は、声も上げられず、またボロボロと涙を地面にこぼしながら大きく何度も頷いた。その姿がぼやけて、桐生の頬にも暖かいものが伝っていく。それを勢いよく拭うと、正面にいてくれる伊吹の方を見遣る。


「…やっぱ、あんたは人を救える力があるんちゃな」


情けなく震えた声を聞いて伊吹は一瞬驚いたようにしたあと、どこか自嘲気味に笑った。


「人を救うことに救われてちゃ世話ねぇだろ」

「そげなこととやかく言うヤツは外野だけやけん、助けられた側はただ感謝しかねぇ。それでええちゃ」


案外当たり前のことが分からないらしい。桐生が返した言葉に、伊吹はやっと、「あんたが言うと重みがちげぇな」と冗談めかして言った。

その柔らかい笑顔は、あまりに優しかった。


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