第四話: Gott ist tot−15


伊吹は次第に落ち着き始めたハッケシャーマルクト駅前の広場で、桐生と臼利を前に、さすがに武田に怒られるだろうか、と内心で自身の選択に迷いを感じていた。照島、猯、雲南に続いて桐生と臼利も勝手に逮捕ではない選択を用意してしまったのだ。
もちろん、自分のせいで雲南たちや桐生たちが狂ってしまったという、自責とまではいかないがある程度の情状酌量のようなものはあった。しかし一方で、伊吹にとってはそれだけが目的ではなかった。

まず一つは情報。とにかく情報が必要であるため、一人でも犠牲を減らすために事前に情報を掴んでおきたかった。

そしてもう一つ、伊吹にはこのようなことをする理由がある。それは、彼らを逮捕した後のことだ。
現時点では、一度魔法使いになった者を普通の人間に戻す術はない。そのため、たとえ逮捕したとしても普通の刑務所では容易に脱獄されてしまう。しかし看守を魔法科兵にしてしまっては通常の国防という重要な任務の戦力が欠ける。しかも、たとえ魔法使いが看守をやったとしてもなお脱獄される危険だってあった。
正直なところ、魔法テロリストは殺害か死刑が最も手っ取り早い。

そこで、彼らに自らの意志で刑務所生活を受け入れてもらう必要があった。それにはこのように身内に取り込むようなことが重要となる。

恐らく今回のG10ではそれも争点になっているだろうし、このベルリン事件で逮捕される者たちの処遇も然りだ。先ほどティーアガルテンで戦闘した際に、相手は魔法兵器さえなければ大した実力でないと分かっていたため、あの程度であれば軍隊の魔法科兵の監視下に置けば十分だろう。だが、猯や雲南、桐生や臼利はかなりの実力者だ。特に桐生と臼利は、昼神と侑を出し抜いている。この4人を脱獄させずに刑務所に入れておくことができる国など日本くらいだろうが、それだって伊吹や牛島がつきっきりで監視する状況が前提だ。とてもそんなことは現実的ではない。

伊吹がこうしてわざわざ会話を選んだのは、そういう理由もあった。とはいえ、それが自身の感情を正当化するための方便ではないかと言われて否定する手段もないのだが。


「…じゃあ桐生、臼利。早速だが、首謀者の場所は知ってるか」

「俺が捜索します」


それにはすぐに臼利が応じた。目を閉じて可視化魔法を展開しているようだ。ほんの少しして臼利は目を開ける。


「ベルリン中央駅にいよんのを確認、どうします?」


伊吹に尋ねる臼利はすでに伊吹に対して指示を仰ぐことに躊躇がなかった。順応が速いというより、やはりVASNAに対して執着がないのだろう。それなら同士討ちにも抵抗はないはずだ。


「カチ込む。俺は中央駅内で首謀者を叩くから、あんたらは中央駅のVASNA兵を掃討してくれ」

「了解」


桐生と臼利が声を揃えて言ったのを確認し、伊吹は近くに路駐された車に向かう。後ろから二人もついてくる。


「車で行くんか」


桐生が首をかしげて聞いてきた。見るからに運転手もキーも見当たらない車に乗ってどうするのか、そもそも乗れるのかという疑問を抱いているようだ。


「あぁ。運転はしねぇけど」


そう言って伊吹は運転席の扉をごく小規模な爆轟魔法で破壊して外すと中に乗り込む。内側からロックを外して後部座席を空けてやり、桐生と臼利を乗り込ませる。
二人が席に着くと、伊吹は風気魔法を展開した。場所は車の下で、すぐに乗用車は空中に浮き始めた。


「うおお!リアル空飛ぶ車ですねぇ!ハ○ポタやないですか!!」


まさにテンションを上げて言う臼利の言うとおりで、魔法使いを描いた名作映画を彷彿とさせる。まさしく魔法なわけだが、桐生は不安定な飛行に少し顔を引き攣らせていた。
それは無視して、伊吹は車を風気魔法で一気に飛ばした。車に乗って眼下の街並みが通り過ぎていくのを見ながら方向を調節し、まっすぐベルリン中央駅を目指す。


「口閉じてろ、舌噛むぞ」

「へ…」


伊吹がそう言って二人が黙った直後、車は一気に降下を開始した。まるでジェットコースターのように内臓が置いて行かれるような感覚になる。空中を飛ばしたためすぐに中央駅に到着しており、ガラス張りの駅正面に向かって猛スピードで突っ込んでいく。


「…おいおいおい、まさかお前、」

「だから黙ってた方がいいって言ってんの」


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