第四話: Gott ist tot−16


桐生は伊吹の意図に気づいてぞっとしているようだ。しかしテロリストがこんなことに怯えてどうすると言わんばかりに伊吹は気にせず、ガラス張りの駅舎を南に回り込み、シュプレー川の方から正面のガラスの壁を思い切り突き破った。鉄骨が車を破壊しないよう、直前に爆轟魔法も展開している。ガラスとともに鉄骨や「Berlin Hauptbahnhof」と書かれた看板が床に落下する。
ガラスが思い切り砕ける甲高い音とともに、車は吹き抜けの広大な空間に飛び込んだ。建物内部は戦闘によって銃声や爆発音がひっきりなしに響いている。車はすぐ目の前にインフォメーションデスクと時計台を見て急停車し、風気魔法の風が止んで完全に着地は終わる。


「映画みてぇですげぇーっスね八さん!」

「……あぁ………」

「臼利の方が度胸あんだな」


伊吹は軽く笑って言うと、扉のない運転席を出て車を降りる。

建物は今いる地上階を含めて5フロアが吹き抜けになっており、地下2階と地上2階がSバーンやUバーン、REなどのホームとなっている。地下1階から地上1階までの3フロアはテナントやフードコートがあるデパートで、吹き抜けの両側にテナントが並ぶ。吹き抜けの間には空中廊下や階段、エスカレーター、エレベーターが複雑に配置されており、モダンアートのようだ。ドイツらしい、大胆ながらシンプルで、それでいて機能的な美しい建築だった。

しかしそれも戦闘によって激しく損傷しており、崩れた通路やエスカレーターが最下層のUバーンのホームを押しつぶし、途中で折れたエレベーター塔がいくつか傾いて反対側の壁に寄りかかり、レストランから煙が上がり、建物を覆うガラス壁やガラス天井はあちこち砕けて床に白く破片となっていた。


「臼利、首謀者はどこにいた」

「地上階のフードコートみてぇなとこっス。名前はドレスデン支部の…ええと、」

「沼井和馬ちゃ、俺らもよう知らん」


続いて出てきた臼利に聞くと、名前だけ桐生が引き継いで答えた。ここにきて初めて聞いた名前だ。桐生たちはイスタンブール支部所属で担当は西アジアだった。欧州での幹部はここで初めて明らかとなったが、まさかここでも日本人が出てくるとは。


「大将優ってのは。猯たちの話に出てきたけど」

「大将優と広尾倖児はパリ支部の所属やけん、今回の作戦には関与しちょらん」

「なるほどな。じゃあ沼井ってヤツは俺がやる、あんたらは駅内のVASNAを掃討」

「分かった」


桐生と臼利は頷くと、エスカレーターを上がって地上1階へと向かった。すぐに戦闘の音が大きくなる。伊吹はそのまま地上階を右手に進むと、フードコートのようにたくさんの飲食店が並ぶ区画に入った。
明るくオレンジ色やクリーム色を多用した広いフロアには、レストランのような形式のものもあればケーキ屋やパン屋などもある。寿司を売っている店もあった。すでにこのフロアでの戦闘は終わったのか、レジやカウンター、陳列ケースが散乱しコーヒーやビールが床に水たまりのように溜まっているだけで、人の姿はない。
照明がやられたのか、明かりはほとんど消えて薄暗くなっていた。
瞬きとともに主観透視になると、少し先のカウンター席だけの店に一人だけ座っているのが見えた。カウンターがぐるりと四角く囲った内側が店員の動くスペースとなっているタイプの店で、恐らくビールやヴルストを出す店だろう。カウンター席の椅子はドイツ基準だけあって位置が高い。

店に近づき、透視をやめて男の背後に立つ。こちらに気づいているであろう男は体格が良く、黒いタンクトップから晒された腕は太く筋肉質で、逞しい体のラインがはっきりと分かった。金髪を跳ねさせて後頭部は刈り上げたツーブロである。明らかに不良っぽい見た目をしていた。


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