第四話: Gott ist tot−18
しかし、沼井を追いかけて吹き抜けに入った瞬間、沼井は頭上の地上2階の地面を爆破した。
南北方向に建っている中央駅の建物に対して、地上2階のホームは東西方向にクロスするようになっている。そのため上から見ると、ホームと建物が十字架を描くようになっており、そのクロスする場所が吹き抜けになっていた。
沼井が頭上の天井を爆破したことで、そこにあったホームが崩落し、停車していたSバーンの列車が吹き抜けに向かって落下し始めた。
線路や鉄骨が破断する重い音と、コンクリートがぶつかり合う乾いた音、そしてガラスが砕けてエレベーター塔が崩壊し通路やエスカレーターが崩落していく轟音が構内に響き渡る。その合間を軋みながら落ちてくる黄色い車体は、互いにぶつかり吹き抜けの壁面を抉り次々と空中廊下を破壊しながら地下へと落下していく。
その大量の瓦礫が沼井と伊吹の間に落下し始めたことで、吹き抜けの反対側に通路を渡りきっていた沼井を追いかけようにも、その通路はすでに上から落下したエレベーターによって地下へと崩れ落ちてしまった。
後に続くようにSバーンの車体と線路、ホーム、様々な上階の看板やエスカレーターなどの瓦礫も吹き抜けを落ちていき、地下2階に到達してそこに停車していたICEなどの車体を押しつぶす音が轟いた。
その頃には、沼井の姿は見えなくなっていた。追いかけるべく透視をしようとしたが、今度は頭上から「八さんッ!!」と叫ぶ声が聞こえてくる。そちらに目線を向けると、落下する前に連結部が外れたらしいSバーンの最後尾の車両が崩落した線路から空中に三分の一ほど突き出しており、連結部から桐生が落ちそうになっていた。臼利が右手だけで空中にぶら下がる桐生の手を掴んでいる。完全に宙に身を投げ出した状態の桐生は、掴める場所も他になく、臼利は必死に車体に体を支えながら桐生を持ち上げようとしていた。
しかし、だんだんと車体は傾いていく。後続の車両がないため支えがなく、二人の重さもあって徐々に傾きを増していた。どうやら地上2階の残ったホーム部分自体も少し傾いているようだ。
伊吹が迷ったのは一瞬だった。
すぐに足下に風気魔法を起こして飛び上がると、手が離れそうになっている桐生の体にタックルするように思い切り掴む。
「臼利!」
臼利の名前も呼んで手を伸ばせば、すぐに理解して臼利も伊吹の手を掴んだ。自分を含めて三人まとめて風で浮かせて安定させたその次の瞬間、ついに車両は崩壊した部分から地下へと落下していった。瓦礫に埋め尽くされ煙が充満する地下2階に落ちた車両の轟音とともに煙が舞い上がる。
それをなぜか見守ってしまってから、伊吹は二人とともに地上階へと降り立った。先ほどガラスを突き破って入ってきた車の近くに降り立てば、桐生も臼利も床に倒れ込んで息をついた。うっすらと白く煙が漂っているが、伊吹が車で突っ込む際に開けた穴から吹き込む風によってすぐに流れていく。
戦闘音が止んでいるのは、この二人が全員倒したからだろう。電車の中にいたのはそこに潜伏していた敵と戦闘中だったからかもしれない。
「…なんで、助けた」
息を切らしながら尋ねてくる桐生。臼利もこちらを見上げている。そちらを見ず、伊吹はぶっきらぼうに答えた。
「…あんたらを裁くのは法であって俺じゃねぇ。法が裁くまでは守る対象だ。それだけ」
「……ふっ、そうか」
薄く笑った桐生はそれ以上何も言わなかった。
伊吹は一応透視をしてみたが、やはり沼井は付近に見当たらず、逃げおおせたのだと分かる。
欧州はアジアと違って死角が少ない。今回のテロで正式にVASNAはテロ組織となるため、逃げたところで欧州ではろくに活動ができないどころか逃げるのも簡単ではない。そのため逃げられたことによる悪影響はさほど危惧していないのだが、一発殴れなかったことは心残りだった。
そう思うと、先ほどは沼井に大層なことを言ったわりに随分自分の感情を動かしている。そんな自分に呆れてしまうが、こうやって桐生たちのことを助けたのも後から理由をつけただけだ。恐らく桐生はそれを理解している。
いわゆるお人好しというやつなのかは分からない。だが、馬鹿にされて怒ったり、咄嗟に誰かを助けたりということにいちいち理由がないといけないのなら、それこそ人ではない。怪物と呼ばれる伊吹にとって、その実感は悪いものではなかった。