第一話: Natural Right−3


こうして改めて客観的に捉えてみると、なかなかにひどいことを言われたものだ。

聞いていた昼神はだんだんと口数が少なくなっていて、そっと見上げると眉をひそめているのが見えた。


「…それで伊吹がつらい思いしてるわけだ」


伊吹が表情から昼神の様子を察したことに気付いた昼神はそう言葉を発し、肩を抱く力を強める。


「理不尽すぎるよ、なんでいつも伊吹ばっかり…」

「別に牛島さんが悪いとかじゃねぇだろ、空港でのことだって本人も気にしてるだろうし」

「言葉は言葉だよ。こんな情勢だからこそ、大事な人のこと守るモンでしょ」


とりなそうとした伊吹だったが、昼神は柔らかくも意志の強い声音で言った。大事な人、と言ったが、果たして伊吹は牛島にとってそういう人間なのだろうか。そんなこと、今まで考えたこともなかったし、伊吹が一方的に頼るだけの関係だとも最近は思うようになっている。


「……俺なら、絶対伊吹のこと守るし悲しませないようにするのに」

「昼神……?」


そう言って昼神は、そっと伊吹のことを抱き締めながらベッドに倒れた。押し倒すようなその姿勢は、真上に昼神の端正な顔がこちらを見下ろしてくるもので、こういう接触と距離感は昼神とは初めてのことだった。

部屋の照明に後ろから照らされて若干の逆行となっていることが、昼神の表情に影を落としているようだ。


「……好きだよ、伊吹」

「ッ、昼神、」


昼神が口にした言葉は、今までも散々言われていた類のものだったが、明らかにその声に乗った感情は大きく、これまでと違ったトーンだった。


「お、前、なに言って…」

「伊吹。俺は絶対そばにいるよ」


昼神は顔を伊吹の顔のすぐ横に寄せて、低く、しかし優しく甘やかな声で耳元にそう囁いた。その甘さと至近距離で感じる吐息にぞくりとした感覚が沸き上がり、同時に、恐らく無意識に伊吹が最も欲していたのであろう言葉を告げてもらえたことで、なぜか体の力が一気に抜けた。

今この瞬間、伊吹は昼神に「許した」のだろう。そして、その逞しい体に縋ることへのハードルがなくなった。


恐る恐る、伊吹は昼神の腰あたりにそっと手を回してTシャツを掴む。昼神もその動きで理解したようで、少しだけ顔を離して伊吹の方を向く。すぐ目の前に広がる精悍な顔立ちと溢れそうな感情を湛えた瞳が視界を埋めて、その瞳と目が合うと、昼神はゆっくりと唇を近づけた。

自身の唇と触れた感触がした直後、ぐっと押し付けられ、舌が差し込まれてくる。侵入される感覚に、伊吹は目を閉じてシャツを握る力を自然と強める。昼神は奥まで舌を入れようと、大きな手のひらで伊吹の後頭部を鷲掴むように支えようとしてきた。その際、首筋の後ろから後頭部の付け根部分にかけてを指でくすぐられ、ぞわりとするような快感が首筋から駆け巡った。


「ん、ッ、」

「…かわいい」


口を離して、昼神は濡れた声で囁いた。思わず鼻にかかった声が漏れてしまい気恥ずかしくなったが、それに昼神は興奮しているようだった。
続いて昼神は直接伊吹の耳に舌をねじこんできた。生暖かく湿ったものが弱いところを容赦なく責め立て、つい伊吹は昼神の背中にまで腕を回して抱き着いてしまった。


「ッァ、んッ、」

「…いいよ、思い切り抱き着いておいで」


そう言いながら昼神も伊吹の背中とベッドの間に腕を差し込んで抱き締めてくる。少しだけ体が浮いたことで、昼神は伊吹の首筋が近くなってそこを舐め上げた。そのまま反対側の耳元にも舌が達して、今度は反対側から快感の波が押し寄せた。


「っふ、んんっ、」

「声我慢しないで」

「っ、むり、言うな…!」

「全部かわいいよ」


あまり会話になっていないような言葉のやり取りに意味はなく、昼神は気にせず伊吹のシャツの隙間から手を差し込んでくる。胸元を掠めたかさついた指に体が強張る。武骨な指は、シャツの下で、伊吹の胸板を撫でながら先を指の腹で撫でた。

ぞくぞくと快感が沸き上がってきて、伊吹は息をつめてやり過ごすしかなかった。


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