第二話: Glória in excélsis Deo−4
デモ参加者たちは列をつくり、新宿では歩行者天国の大通りを、渋谷では交通規制の敷かれた道路をそれぞれ繁華街へと行進していく。その様子は報道されており、上空には報道ヘリが飛んでいるのが見えた。テレビクルーの姿も眼下の通りには見えている。
SNSで見ていれば、デモ参加者はプラカードや幟を掲げて歩き、口々に「魔法はいらない」
「No Magic Needed」と叫んでいる。
SNSのハッシュタグも「#魔法の保持と使用に反対します」などのようなタグに合わせて、参加者たちの画像や意見などが投稿されていた。
海外でのCHREUSのデモと同じかそれ以上に人を集めているようで、かなりの群衆ができていた。
新宿三丁目交差点にもデモ隊は差し掛かっており、ゆっくりと歩く人の群れが延々と新宿御苑の方から新宿駅に向かって続く。それを見下ろしていると、通りの両側の歩道からデモ隊を見守っていた一般の人々からも飛び入りする者がところどころに見受けられた。歩行者天国となった四車線の大通りを埋める人々の頭とカラフルなプラカード、それを映すテレビクルー、今や世界中で見られる光景だ。
SNSでの投稿やシュプレヒコールの中には伊吹の排斥や国連への移送、さらには殺処分を求める声まであり、日本でもかなり伊吹に対する風当たりが強まっていることが分かる。居場所が消えていく感覚が再び沸き起こりそうになり、ごまかすように甘ったるいコーヒーを飲みほした。
「おい、飲みきったら長居しづらくなんだろ」
すると二口がそんなことを言って、弄って丸めていたストローの紙袋を投げてきた。普段通りのその振舞いになぜかひどく落ち着く。息をついて、「うるせえ」とだけ返してやった、そのときだった。
突然、伊勢丹の屋上から通りに向かって何かが投げられた。その正体に気付いて、伊吹はすぐに立ち上がってその物体に魔法を展開する。直後、それは通りの群衆の頭上で爆発を起こした。一瞬で爆風が半径5メートルほどの煙となって広がり、爆音が窓越しに店内にも轟いた。衝撃がびりびりと床を揺らし、窓に罅が入り、そして通りからは一斉にけたたましい悲鳴が響き渡る。
店内にいた人々も驚いて叫び肩を揺らす。照明が一瞬だけちらついた。
窓の下を見遣ると、デモ隊を中心に人々が悲鳴を上げながら走り出していたが、伊勢丹の屋上からはレーザー光線が次々と交差点に向かって放たれ始めた。光線に貫かれた人々は力なくアスファルトに倒れていく。光電子魔法であろうそれは飛距離に調節をしなければ、特別な素材でもない限りどんどん貫通していく。何人でもまとめて串刺しにできてしまうのだ。
広い交差点に、女子大生、老人、男性がまとめて一本の光に撃ち抜かれて鮮血を噴きだし倒れる。それを見た周囲の人々はまた悲鳴を上げてバラバラに逃げ惑うが、北の新宿五丁目交差点からも人々が走ってくる。どうやらあちこちで同時に事態が発生したらしい。
「こちら朝倉!三丁目交差点でテロ発生!」
『こちら弧爪、東口アルタ前広場でも爆発と衝撃』
『こちら昼神!スクランブル交差点で大規模な爆発、NR渋谷駅構内でも銃撃!』
渋谷、新宿ともにテロが発生した。無線に伊吹が応答している間、二口はすぐに交差点を中心に通りの頭上を真っ黒な天井で覆った。孤立空間魔法による蓋によって、頭上からの攻撃は防がれる。
『こちらビッグサイトより侑!GMEx会場内部で爆発とテロ発生!』
「朝倉より各隊、予定通り現場判断に任せる」
それだけ告げると、伊吹は窓ガラスを破砕する。鋭い音を立てて窓が割れたことで、伊吹たちに逃げるよう言いに来ていた店員が悲鳴を上げる。
「国防軍です、すぐに新宿を離れてください」
「は、はい!」
エプロンもそのままに、女性店員はすぐに走り出す。店の外では、大勢の買い物客たちが慄いた声を発しながら走って階下へとエスカレーターや階段に向かうのが見えていた。
「伊勢丹のやつ片付けてから歌舞伎町方面に向かう。”Wall”の方は任せた」
「了解」