第二話: Glória in excélsis Deo−5
二口の返答を聞いてから、伊吹は割れた窓から外に飛び出し、向かいの伊勢丹の屋上に飛んだ。外に出れば、恐慌状態となった世界最大の歓楽街の騒音が耳に飛び込んでくる。
すぐ直下の通りは二口の魔法によって塞がれているが、北の方角、五丁目交差点と花園神社から爆音が響く。また、北西の歌舞伎町からは黒煙がいくつか上がっており、有名な映画館の高層ビルとゴジラの頭のランドマークも煙に隠れていた。
西の新宿駅と超高層ビル街の方からも銃撃音と爆発音が断続的に聞こえてきており、すでにあちこちで戦闘が始まっているのだと分かる。
一方で、東の新宿御苑や新宿二丁目からは音がなく、人々が逃げていくのが見えるだけだった。恐らく、第三小隊を率いて矢巾たちがこちらへ向かってくるだろう。
そうした状況を一瞬で把握した伊吹は、すぐに飛んだ先にある伊勢丹の屋上にいた数人を補足した。透視すれば、彼らが魔法使いであることが分かる。
「光電子魔法はこう使うんだ、冥土の土産に覚えとけ」
伊吹は低く呟いて、右手を拳銃のような形にして的を絞り、次々と屋上にいた魔法使いたちを射殺した。射程距離は完璧で、建物には傷一つついていない。荒い使い方では消耗が激しくなるだけだ。とはいえ、もはや事切れた彼らには関係のないことである。
透視によって、三丁目交差点に面した建物がクリアだと判断した伊吹は、無線で二口に呼びかける。
「三丁目クリア、魔法解いていいぞ」
『了解、作並、歌舞伎町の状況は』
『こちら作並、東宝ビル前セントラルロード、一番街、さくら通りで戦闘中、市民が多くて防戦です』
「俺がフォロー入る、”Wall”から二人適当にアルタ前に回して”Cat”に合流させとけ。弧爪、地下街は」
『案の定、地下街でも銃撃戦。NRの駅構内に入られそう』
『こちら二口、女川と吹上はアルタ前へ』
『了解』
伊勢丹の上を飛びながら、雑居ビルが林立する歌舞伎町での戦闘は伊吹が透視で行うことにして、大勢の人で混み合う新宿駅東口に人員を割くことに決める。
靖国通りが見えてくると、伊勢丹メンズ館から8車線の道に銃を乱射するテロリストたちを同様に光電子魔法で射殺する。さらに、五丁目交差点に面して建つマルイメンの崩れ落ちた3階あたりから交差点を狙う数人もすぐにレーザー光線で撃ち抜いた。靖国通りは歩行者天国になっていなかったのか、走行していた車やバス、トラックが止まったままになっている。運転手たちが逃げ出したのだろう。こんな開けた場所では、車で動く方が目立って危険だ。また、道に溢れた逃げ惑う人々の間を縫って走ることなどできない。
『こちら白布、GMEx会場内で爆発、展示品と思われる兵器が無差別に人を襲ってる』
「はぁ?!」
靖国通りを見ながら歌舞伎町に飛ぼうとした瞬間、聞こえてきた白布からの無線に思わず驚きの声を上げてしまう。まさか内側からテロが起こるとは。しかも、展示されているものが利用されているらしい。
『東展示場を中心にかなり被害が出てるけどどうする』
「展示品はこの際どうなってもいい、すべてぶっ壊せ」
『お前ならそう言うと思った』
白布は落ち着いているが、ベースのメンタルがヤクザめいていることもあって意外と血気盛んだ。伊吹のゴーサインは分かっていた範疇のようで、おかしそうに言ってから指示を出し始めた。あちらには瀬見や山形など上の代もいる、戦力としては申し分ないためすぐ片が付くだろう。
伊吹は歌舞伎町上空に差し掛かったあたりで、眼下のセントラルロードを見下ろす。青根と黄金川が周囲のビル街に孤立空間魔法を展開しながら、逃げる人々を守りつつ攻撃を防いでいた。とにかく市民が多く、すでに攻撃を受けて倒れた人の姿も多く点在していた。新宿だけでとっくに100人以上が亡くなっているはずだ。
最初から本腰を入れて国防軍が介入していればもっと守れた。伊吹は歯噛みしながらも、青根たちに攻撃を続けるテロリストたちを上から射殺していく。どうやら、テロリストたちはシールド兵器を持っていないようで、呆気なく倒れていった。