第二話: Glória in excélsis Deo−6
東京都渋谷区・道玄坂一丁目。
渋谷駅と吉祥寺駅を繋ぎ、下北沢なども経由するオシャレ路線の井の頭線改札からNR渋谷駅を繋ぐ長い通路にて、昼神は柱に隠れて様子を窺っていた。
今から10分ほど前、この通路の窓から見えている渋谷の象徴・スクランブル交差点でテロが発生し、道玄坂一帯で激しい戦闘にもつれこんでいた。
昼神のすぐ正面には井の頭線改札があり、ピンクを基調とした改札機の向こうに逃げ場をなくした人々が多くホームにしゃがみこんだりスマホで連絡を取ったりしていた。すでに鉄道は運行を停止しているようで、改札もすべて×印がついて閉鎖されている。逃げ込んできた人々はそれでも改札を跨いでホームに入っていくが、通路から激しい爆発音が響く度に悲鳴を上げていた。駅員も右往左往している。
改札から昼神のいる柱までは何本か、デジタルサイネージ付きの柱が大きな通路の左右に並んでいる。昼神は改札を正面にして右側の柱に隠れており、背後では戦闘が起きている。
昼神の右手後方には、商業施設である渋谷マークシティへ続くエスカレーターと、地上階に降りるエスカレーターがある。エスカレーターは吹き抜けのエントランスに位置し、その先を進めば東横線への入り口やスクランブル交差点に続く。
今、通路で戦っているのは星海と白馬だ。昼神は柱に隠れて様子を見つつ、改札から戻ってきた別所と合流した。
「大丈夫だった?」
「はい、井の頭線内の市民は神泉方面に逃げていきます」
「よし、じゃあ俺たちも戦闘に戻るよ」
二人は井の頭線周辺での市民の誘導にあたっており、先ほど、東横線や半蔵門線、銀座線に繋がる広大な地下通路にいる人々をそれぞれ誘導していた。これでスクランブル交差点周辺の市民はあらかた逃げおおせたはずだ。
昼神は別所とともに柱を出て通路を山手線方向に進む。マークシティのエスカレーターを通り過ぎれば、すぐに窓からスクランブル交差点が見える。交差点内には多くの遺体が転がり、白線に赤い血がはっきりと見えた。デモ隊を含む歩行者が交差点を進んでいるところで爆発が起きたのだ。交差点に面するガラス張りのビルはすべて窓が割れて、道路に白くガラス片が散らばっている。
交差点側から敵が突っ込んできたため、壁が一部崩れて穴が開いている。ちょうど、二階分が吹き抜けている通路の右側に巨大なアートが描かれたところで、広大な空間で戦う星海と白馬は、敵をここに留めて多くの市民がいる井の頭線と山手線それぞれに敵の攻撃が及ばないよう挟撃していた。
「光来君もういいよ!」
「よっしゃ!」
誘導が完了したことを告げれば、星海は遠慮がなくなったことで一気に攻勢をかけた。もともと、このメンバーは基本的に防御要員であるが、星海は攻守どちらもできる。
星海は衝撃魔法を自らの近くで展開しながら敵に飛び掛かると、テロリストを床に叩きつける。さらにそこから衝撃波を強めれば、床が耐え切れず破砕された。
この空間は神宮通りという大きな道路を跨ぐように建つ空中廊下のようなものであるため、崩壊した床から二人は階下の神宮通りへと落ちていく。
星海はそのまま敵を道路のアスファルトに押しつぶした。道路に亀裂が走り、運転手を失って停車した車がその衝撃で防犯ブザーを鳴らした。
「光来!大丈夫か!」
「おー!」
通路に空いた床の穴から白馬が問いかければ、遠く星海の返答があった。それを聞いてから、昼神は無線を入れる。
「こちら昼神、渋谷駅クリア」
『こちら縁下、そろそろスクランブルスクエアの掃討完了』
『こちら赤葦、109からセンター街にかけても残党狩りの目処が立った』
どうやら渋谷での戦いは概ね完了しつつあるようだ。新宿や有明ではまだ大規模な戦闘が続いている。その新宿から、伊吹が声をかけてくる。
『こちら朝倉、渋谷の部隊は戦闘後新宿に来い』
「こちら昼神、了解」
戦闘が落ち着いたことで、スクランブル交差点には市民の誘導で精一杯だったらしい、交通規制の警察がパトカーで入ってくる。周辺のビルや路地裏に隠れていた人々も出てきて、凄惨な交差点に呆然としていた。
もしここに昼神たちがいなかったら。もし伊吹が国防軍の言うことを聞いて立ち上がらなかったら。
いったいどれだけの人が死んでいたのだろう。