第二話: Glória in excélsis Deo−7


東京都港区・港南二丁目。


品川駅港南口は、日曜日ともなれば行き交う人の姿も少なく閑散としている。しかし超高層ビルが林立するオフィス街であることもあり、休日出勤を余儀なくされる人々だけでもそれなりの数になっていた。

そんな街は現在、銃撃戦の中にあった。


「太一、そこのカラオケの中に一人いる。突っ込むぞ」

「ええ…白布ってほんと好戦的だよなぁ」

「うるせぇ黙って来い」


白布がそう言って走り出すと、後ろから川西もついてくる。港南口を出てエスカレーターを下った先の広場を右手に進み、品川インターシティと呼ばれる高層ビル群へと続くペデストリアンデッキの下を通って小規模な繁華街の端へと向かう。この道の先には食肉市場がある。

道に面したカラオケ店に着くと、ガラスの自動ドアを白布が衝撃魔法で粉々に砕き、それによって埃が舞い照明が瞬くエントランスに飛び込んだ。すぐに受付カウンターに隠れていたテロリストが姿を現し光電子魔法によるレーザー光線を放ってきたが、自動展開したシールドに阻まれ当たらない。川西は阻まれた光線が外で逃げ惑う人々に当たらないよう孤立空間魔法で防いでいる。

それに任せて白布は心置きなくカウンターごと敵を爆轟魔法で吹き飛ばした。カラオケ店のロゴが壁ごと崩れ落ち、レジが破壊されて紙幣が舞い上がる。


「雑ぅ…」

「お前が丁寧すぎんだよ。どうせ魔法科どうしで戦うんだ、これくらいは避けられねぇ」

「伊吹とそういうとこ似てるよな」

「あいつはもっとうまくやる」


白布が手放しで褒めることはそうない。サバサバとした性格の白布と伊吹は気が合うが、内心では白布は伊吹の繊細かつ大胆な魔法の使い方を尊敬していた。


「座標探知術式展開……チッ、駅の方に移動したか」


次の敵を探すべく、魔力を探知することに特化した可視化魔法によって残りの敵の居場所を突きとめる。こうした索敵能力は白布の得意とする分野だ。


「太一、駅に戻る」

「了解」


白布はすぐに走り出し、太一も続く。


もともと白布たちは、侑たちとともに有明の東京ビッグサイトにいた。しかしGMExの展示品がテロリストによって悪用されて人々を襲い始めたことですべて破壊。その間に、魔法を利用したヘリコプターによってテロリストは都心への移動を始めていた。

気付くのが遅れた白布たちは急いでもう一機のヘリコプターを出品者から徴収して空へと飛び立ち、都心に向かおうとしていたテロリストを東京湾上空でなんとか誘導し、品川に辿り着いた。

オフィス街の方では侑たちが戦っており、白布たちは駅前から駅構内での戦闘を行っている。


「太一、品川駅って品川区じゃなくて港区にあるって知ってたか」

「え、マジで」

「そして目黒駅は目黒区ではなく品川区にある」

「初めて知った…てか今言うことかそれ」

「この戦いでお前と喋るの最後かもしれねえだろ。いいヤツだったぜ太一」

「いや俺が死ぬ前提か」


そんな軽口を叩きながら駅前の広場に出ると、エスカレーターを駆け上がって港南口から品川駅を象徴する巨大な通路を進む。高いドーム状の天井に幅の広い通路は、平日朝ともなればスーツ姿の人々で埋め尽くされる。


『こちら天童、敵が一人港南口の通路に突っ込むヨ』

「は…?」


突然無線が聞こえてきた次の瞬間、天井を突き破って敵が通路内に飛び込んできた。鉄骨や鉄板が落下してきて、轟音とともに地面が揺れて一定の間隔で並ぶサイネージが明滅する。

敵はこちらに気付いてすぐに衝撃波を放つ。それに白布が反応する前に、川西が反作用爆轟魔法を展開した。
衝撃波は川西の魔法によって跳ね返され爆発に姿を変える。敵はその爆発であっけなく事切れた。


「…こちら白布、そういうのはもっと早く言ってください」

『事前に言ってやっただけ感謝して欲しいよネ〜』

『こちら角名、インターシティでの戦闘終了』


天童に文句を言うともっともなことが返ってくる。そこに、オフィス街での戦闘が終わった報告が入り、白布は再び索敵をする。どうやら駅周辺には敵がいないようだ。こちらも完了と見ていい。さすがに、瀬見たちがいるだけあって敵の掃討は容易かった。


「こちら白布、品川駅構内および周辺での掃討を完了」

『こちら朝倉、品川に移動したときに使ったヘリは使えるか』

『こちら赤木、まだ生きてるぞ』

『了解しました。両隊、新宿へ移動してください』

「こちら白布、了解。新宿はどうだ」

『渋谷から応援来てもらったけどまだだ。それに、VASNAの幹部、大将や広尾、沼井を誰も見てない。佐久早たちもな。まだ次があるぞ』


伊吹は冷静に東京全体での戦闘を把握しながら、自身も新宿での戦闘を行っていたようだ。そして報告を踏まえ、まだ誰もVASNAの幹部を見ていないことに気付いた。そういう頭の回転の速さはさすがである。

とにもかくにも、まだこの戦いは序盤なのだという伊吹の言葉はその通りだ。白布は川西とともにヘリコプターが止まっているインターシティの方へと走り出す。目指すは新宿、東京で最もカオスな街だ。


219/293
prev next
back
表紙へ戻る