第二話: Glória in excélsis Deo−9


「すぐにここから離れてください!大規模な戦闘が起きます!!」


こちらを怯えたように見る市民にそう叫んでから、すぐに伊吹は風気魔法によってその場を離脱して空中に飛び上がった。
まずは一番街にいる二口と黄金川の様子を見なければならない。ただ、広尾がいなくなったタイミングからしてもう遅いかもしれないと薄々伊吹は察している。

映画館の左側、ゲームセンターが1階にある商業ビルの前にひときわ背の高い二人が見えた。ゲームセンターにいた人々や、近くの居酒屋などの従業員たちが道に溢れている中でも目立つ。しかし、二口がこちらを見た瞬間、その瞳の暗さは遠目でもはっきりと分かった。


その直後、二口はこちらに向かって爆轟魔法を展開した。2階建ての居酒屋とコンビニが入る雑居ビルの上を飛んでいた伊吹は、突如として爆発に巻き込まれる。シールドによってダメージこそなかったが、居酒屋と雑居ビルが吹き飛ばされ、ガラスが割れ看板が砕けコンクリートが崩れ落ちる音が響いた。一斉に悲鳴が上がり、煙から伊吹が飛び出すと一番街の通りを逃げ惑う人々が見えた。

居酒屋の前には数人が血を流して倒れており、隣のビルは完全に崩れて、押しつぶされたコンビニの瓦礫の合間から血だらけの手が飛び出していた。

洗脳されているとはいえ、仲間の魔法でこうなったのだという事実に、体の内側がさっと冷える。


「ッ…!二口やめろ!!」


意味がないと分かっていてもそう叫んでしまった。それで場所が分かったのか、今度は黄金川が衝撃魔法を放つ。とてつもない威力のそれに対して、伊吹はシールドで防がれたが、背後に広がる一番街の通りは轟音とともに吹き飛ばされる。悲鳴が一瞬だけ聞こえたが、ほとんどがすぐに途絶え、散発的に火花が散る。ちらりと振り返ると、その惨状に目を見開いた。


韓国料理店やカラオケ、焼き肉屋にチェーンのイタリアン、マンガ喫茶やガールズバーなど通りに面する様々なテナントが入ったビルの並びが軒並み吹き飛び、瓦礫の山と化している。アスファルトはめくれて亀裂が入り、ビルがすべて崩壊して原型を留めず、道の先にある「歌舞伎町一番街」というネオンの門は捻じれて倒れていた。街灯や瓦礫から火花がところどころ散っており、すでに何か所かから炎が噴き出し、色とりどりの看板が瓦礫の間から飛び出していた。
そして、通りを埋めるように走っていた人々のほとんどが道路に倒れ伏しており、呻き声や痛みに絶叫する声が徐々に瓦礫を漂い始めていた。
大規模な破壊によって、セントラルロードや靖国通りからも悲鳴や怒声が聞こえてくる。

そこに、後ろからさらに魔力の気配を察知して、すぐに足に魔力を込めて飛び上がる。二口たちの上をバク転の要領で大きく飛び越えて、反対側のゲームセンターがあるビルの壁面に着地する。

伊吹はそこから反動で二口たちの方へ飛び出そうとしていたが、それより先に二口が自身の足元に衝撃魔法を展開することでロケットのようにこちらに飛び出してきており、伊吹を勢いよく壁に押し付けた。
シールド兵器が発動したことで伊吹の体は圧力こそかかっていないが、二口が思い切り衝撃波によって伊吹をビルに押し付けたため、壁が崩れて中に押し込まれた。飛び込んだ先は有名なチェーンの居酒屋で、待機用の長椅子のところまで吹き飛ばされる。


「うぐ…っ!」

「何してんだ伊吹、早く行くぞ」


二口は感情のない瞳でそう言った。椅子や観葉植物が床に倒れる合間に伊吹も倒れ、二口がそれを見下ろしているが、普段の明るい表情はそこにはなかった。


「うる、せぇ…っ!!」


伊吹は風気魔法と衝撃魔法を干渉展開させて、目にもとまらぬ速さで壁の穴から外に躍り出た。開けた屋外に出た瞬間、セントラルロードの映画館の正面あたりに集まった人々がこちらを見上げているのが見えた。一瞬だけ一番街を見れば、動ける人々が道を埋めるように倒れるけが人を介抱し始めているのが窺える。


「頼むから…逃げてくれ…っ!!」


仲間に民間人を殺させたくなかった。だがもう間に合わない。

二口と黄金川は伊吹を狙って同時に衝撃魔法を展開した。それによって、伊吹ごと映画館のビルに猛烈な衝撃波が直撃する。
壁のパネルや映画の予告看板、窓ガラスが一斉に砕けて飛び散り、一部が崩落してゴジラの頭が落下していく。

ガラス片と瓦礫に混じって落下する頭の下には、悲鳴を上げる群衆がいた。


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