第二話: Glória in excélsis Deo−12


伊勢丹から地下を通っていく方法もあったが、地下通路は逃げ場がない。どうせ赤葦などが可視化魔法で伊吹の場所を突き止めるはずなので、迂闊に狭い場所で民間人を巻き込むわけにはいかなかった。

救急車や消防車のけたたましいサイレンが鳴り響き、警察がしきりに逃げるよう叫んでいるが、あまりに人が多すぎて路地やデパートの中などに留まる姿が多く見受けられた。
どうやら機動隊なども入っているようだが、市民の誘導に専念しているように見える。どうせ伊吹たちが戦っていることを知っているのだろう、戦闘はこちらに任せているのだと考えられる。正直こちらとしてもその方が楽だ。

さすがに第1魔法科大隊の隊員相手に怪我なくというのは難しい話で、あちこちに痛みが走る中でなんとか新宿駅へと足を進めている。もともと歩行者天国だったこの通りには、もうかなりの人が外に出てきていて、それぞれどこに移動しようか思案しているようだった。
道路にはデモ隊が持っていたプラカードや幟、鞄などが散乱しており、脱げた靴なども落ちている。道の端では、怪我をしたものの救急車にすぐに乗れなかった人々が座っており、介抱を受けている。

これまで世界で起きてきたテロの光景そのものだったが、魔法が使われているというそれだけで一度に死ぬ数が桁外れになる。


その死者数の中には、洗脳された第1魔法科大隊のメンバーによるものも含まれる。


もし伊吹がおとなしく駐屯地にいれば、もっと多くの市民が犠牲になっていたかもしれないが、仲間たちに民間人殺しの罪を着せることもなかった。テロリストたちは大した力ではなかったため、もしかしたらこうして伊吹たちが同士討ちしている方が被害を大きくしているかもしれない。

だとすれば、完全に自分のしたことが裏目に出てしまう。


その考えを頭を振って霧散させる。今はそんなことを考えている余裕はない。
東口には弧爪たちがいるはずだ。洗脳されているかどうかを確認して、洗脳されていれば全員意識を落とさなければならない。逃げるのに必死で歌舞伎町や伊勢丹にいたメンバーを落とすことができなかったが、それは後で体勢を立て直してから落としにいけばいい。
そう考えて、伊吹はアルタ前広場に到達した。

最初の爆発によって広場の中央部は更地となっており、コンクリートが抉れてむき出しになっている。植えられていた木々は根こそぎ倒れ、たまにアーティストが小規模なライブを行うステージが設置される場所もアスファルトがはがれていた。
見晴らしがよくなった広場を見渡すと、鉄道が止まって行き場をなくした人々が溢れる中に弧爪たちを見つけた。しかし同時に、弧爪もこちらを見た。恐らく透視で伊吹を見つけたはずだ。

さあどう出る、と様子を注視すると、案の定、弧爪が指示を出して犬岡とリエーフ、山本がこちらに走ってきた。魔力を漲らせたのが見えて、伊吹は風気魔法で広場の上空に飛んだ。

突然の動きに周囲にいた群衆が一斉に見上げる。伊吹の正体に気付いた者たちが口々に声を上げていた。
そして広場の中心にいるリエーフが、伊吹の周囲に爆轟魔法を展開して爆発が生じると、見上げていた人々は叫びながら頭を屈め、我先にと広場から離れるよう走り出した。ごった返していた群衆が一斉に走り出したことであちこちで将棋倒しが起きている。

人々がいなくなったことで開けた広場に向かって急降下した伊吹は、瞬間的にリエーフたちの至近距離に姿を現した。そして反作用衝撃魔法を両足と右手に展開し、まずシールド半径の内側に入っていた犬岡を右足で蹴り飛ばし、その足でリエーフの半径内に着地して振り返りざまに左足で蹴り飛ばし、今度はその左足を山本のすぐ正面に置いて軸足として右手で山本の鳩尾を殴り飛ばした。

犬岡は地面に倒れ、リエーフは家電量販店前の地下通路入り口の壁に激突し、山本は飛ばされてアルタビルの巨大な街頭テレビに叩きつけられた。最初の爆発によってすでにこのテレビは停止していたようで、山本が叩きつけられたことで画面に大きく亀裂が入るのが見える。


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