第二話: Glória in excélsis Deo−13
あまり弧爪と正面からやりあうのは得策ではない。あの作戦立案力は、ただでさえ劣勢の伊吹には正直きつい。
そのため、伊吹はすぐに再び上空に飛び立つと、新宿駅の上に飛んだ。まずは他のメンバーの洗脳を解いて、複数人で弧爪たちに挑むのだ。
上空から見ていると、地下通路はともかく、駅構内は閉鎖されているため人がいない。いくつか線路に電車が止まったままなのが分かるが、そこにも人はいなかった。
線路やホームの上空5メートルほどを飛んで西口方面へと向かっていた、そのときだった。
「っ、!ぶね…ッ!」
突然、線路の一部が吹き飛んだのだ。
下から突き上げるように破壊された線路の瓦礫が銃弾のように飛んできて、シールドで防がれたために視界が塞がされたその一瞬で、目の前に瀬見が迫っていた。危うく瀬見によって至近距離で衝撃魔法を食らうところだったが、ギリギリのところで伊吹は風で位置を変えて瀬見をシールド半径から締め出していた。
「おお、さすがの身のこなし」
「あんたらまで…!」
「大将ってヤツ、案外悪いヤツじゃねぇんだな」
「何言ってんすかマジで」
瀬見は衝撃魔法で飛びだしているため落下し、ホームの屋根に着地した。さも当然のように大将の名を出したが、どうやら”Eagle”に対して洗脳魔法をかけたのは大将だったらしい。品川からここに来てもらったあと、彼らには駅構内での掃討を頼んでいたため、この辺りに潜伏していたのは大将だと分かる。
伊吹も瀬見と同じホームに着地して様子を窺う。いつも通りの快活な笑みが逆に不気味だ。
「あんまこっちばっか注意するもんじゃねぇぞ」
すると、瀬見はニヤリとしてそんなことを言った。何かと思った瞬間、背後から殺気を感じて、咄嗟にその場から離れて空中に飛び出す。同時に、伊吹が立っていた屋根が崩落して火花が散った。
「避けないでください伊吹さん」
「避けるわアホか」
屋根の穴の淵に立っているのは五色だ。白布や川西と同じく二次入隊組ながら高いセンスで高度な衝撃魔法を使用する。京谷といい五色といい、捕まえるという目的のためにしては攻撃力が高すぎる。
「動けなくしないと捕まらないですよね」
そう言って五色は再びこちらに距離を詰める。伊吹は慌てて線路に降りて、先ほど瀬見が出てきた穴に飛び込んだ。
穴の先は東口と西口を繋ぐ通路で、広々とした通路には普段なら大勢の人間がごった返しているが、今は誰の姿もなかった。いや、気配が複数こちらに注意を向けてきた。
伊吹はすぐに西口に向かって走り出す。背後から追いかけてくるのは、恐らく他の”Eagle”のメンバーだ。
走り出してすぐ、上の方から魔力の反応を感じて、咄嗟に伊吹は足元に衝撃魔法を展開して勢いよく前方に移動した。
間一髪、伊吹が進もうとしていた辺りの天井が爆発とともに崩落し、火花を散らしながら各ホームや乗り換え路線の行き先を示した案内表示が床に落下する。天井板や瓦礫とともに様々な電線が垂れ下がり、線路に敷かれた土砂が床に散らばっていく。照明が完全に断線したのか、通路は停電して暗くなった。
恐らく、五色と瀬見が上から直列爆轟魔法でも起こして通路を押しつぶそうとしているのだ。
これで伊吹が下敷きになるとは思っていないだろう。魔力を察知することができる伊吹の感覚の鋭さをよく知っているため、今のように避けることを前提にしている。
「閉じ込めたつもりだな」
この通路は、この先の西口付近にある13・14番線のホーム以外にホームへ上がる階段が存在しない。通路の中ほどが崩落して塞がれた今、伊吹の退路はなく、正面の西口しか進む方向はなかった。袋小路というわけだ。
案の定、西口の方から改札の照明に照らされて逆光となった人影がこちらに近づいてきた。向こうから来る前にこちらから攻撃しようと魔力を展開しようとすると、突然、カッと眩い光が目の前に炸裂した。閃光弾のようなそれによって視界が暗くなる。すぐに伊吹は可視化魔法に切り換え透視のレベルを普段より上げることで、ほとんど同じ視界を維持するが、その一瞬の隙が致命的だった。
視界が定まった瞬間には、もうすぐ正面に治とアランがおり、背後には角名と赤木がいた。攻撃力の高い治とアランを吹っ飛ばそうと衝撃魔法を展開すると、二人の前に反作用爆轟魔法が同時に展開される。
まずい、と思ったときには遅く、伊吹の衝撃波が跳ね返されて爆発に置換され、伊吹を直撃する。これは自分の魔力によって生じた魔法であるためシールド兵器は発動せず、もろに食らった。
さらに、伊吹を襲った爆発は背後でもう一つ展開されていた反作用衝撃魔法によって再び衝撃波に変換され背中から伊吹を吹き飛ばす。