第二話: Glória in excélsis Deo−14
「っぅぐ…ッ?!」
爆発の熱が正面から、衝撃波が後ろから当たったことで息が止まり激しい痛みが全身を走る。轟音で耳が水の中にいるように聞こえにくくなり、思い切り床に叩きつけられた。衝撃で咳き込むと、ヒリヒリとごく軽度の火傷をした顔や腕が痛む。
治とアランを囮に、角名と赤木が反作用魔法で伊吹を挟撃しシールド兵器の使用を防いだのだ。あまりにテクニカルな動きは、さすがに国防軍所属というだけあった。
「堪忍なぁ、伊吹」
治はそう言って伊吹を抱え上げる。その体に凭れながら必死に呼吸を整える。肺が急に小さくなったかのように呼吸がしづらい。首から頭にかけてもズキズキと痛んだ。
「…マジで…覚えてろよ…!」
伊吹は息も絶え絶えにそう恨み言を漏らし、そして、地上の直上から垂直に衝撃魔法を使って通路の天井を崩落させた。突如として天井が崩れて瓦礫が降り注ぎ、案内板が落下してくる。そう高い天井でもない、角名と赤木の孤立空間魔法より前に伊吹たちは瓦礫に埋め尽くされた。当然、シールドによって瓦礫に押しつぶされることはなく、治から離れたところで伊吹は今度は上に向かって衝撃波を放ち、瓦礫を吹き飛ばして風気魔法によって地上へと飛び出した。
暗い地下から夏の外へと躍り出たことで視界が開ける。もう透視でなくとも視力は回復していて、何本も黒煙が立ち上り消防車や救急車の赤い照明が道路を埋める東口エリアが見渡せた。
先ほどの挟撃によって、シャツのボタンがいくつか飛んだのか、服の内側に吹き込んでくる生暖かい風を素肌に感じる。体中痛むものの、火傷などは大したことがなく、なんとか戦えそうだ。
そこへ、眼下の線路から誰かが飛び出してきた。衝撃魔法によってここまで瞬間的にジャンプしてきのは、侑だ。先ほどの目くらましも侑の光電子魔法だろう。侑は伊吹よりも数メートル高い位置まで飛んで、落下を始めながらニヤリとした。
「頑固なやっちゃな…!」
「っるせぇ!」
バクーで伊吹に寄り添ってくれた笑みが脳裏にちらつく。何かと助けてくれた侑まで伊吹を捕まえようと攻撃を仕掛けてくることに、攻撃によるダメージではない部分で苦しくなった。
侑は至近距離で光電子魔法によるレーザー光線を上から放つ。伊吹は避けることができず、シールド兵器が発動して黒い壁に視界を塞がれた。次の手が読めた伊吹だったが空中ではどうすることもできない。壁が消えた瞬間、侑がシールド半径の内側に入ってきた。
飛べるわけではない侑は落下しつつあり、伊吹の肩を掴んだ。そして、衝撃魔法を東に向けて放つと、その勢いに乗って伊吹ごと西へと猛烈なスピードで押し出した。
「な…ッ!」
侑に掴まれ押される肩が脱臼しそうで痛む。ここで侑を振り払えば落下死しかねないため、振り落とすこともできず、侑とともに西口の超高層ビル群へと到達した。勢いよく過ぎていく景色の中、左手にガラス張りの曲線を描いたビル・コクーンタワーや茶色いセンタービルが見えたころにようやく勢いは弱まる。
そのタイミングで、おもむろに侑は手を離した。ここはビルの15階ほどの高さだったが、侑は近くに出現した黒い孤立空間魔法の板に着地する。小さな板は一定の間隔で地上へと階段のように出現していた。
「あとは任せたで」
「任された〜」
そんな緩い声がした瞬間、伊吹は背中から何者かに抱き留められ、足が硬い床に着く。
正面に回された腕と涼やかな声は、昼神だ。侑が地上へと降りていくのを見ながら、伊吹は恐る恐る後ろに声をかけた。
「昼神…?」
「そうだよ。やっと俺も侑君も吹っ切れたんだよね、伊吹を助け出そうって」
もし牛島や国防軍、日本が伊吹の居場所でなくなってしまったら一緒に逃げようとまで言ってくれた昼神が、緩やかに、しかし確実に伊吹を拘束している。二人は昼神のものだろう、3メートル四方ほどの孤立空間魔法の板の上に立っていて、中央通りの上空30メートルほどのところに留まっている。