第二話: Glória in excélsis Deo−16


もうすでにすべての小隊で洗脳魔法がかけられているため、あとは佐久早たちが直列展開するだけだ。この段階で止めるには、大将と広尾を見つけ出して終末展開をさせないようにするしかない。


「それ聞いて素直に従うか…!」


伊吹は孤立空間魔法の板から風気魔法で飛びあがると、バク転の要領で空中に出て透視を開始する。しかし佐久早も同様に風気魔法によって飛び立ち、追いかけてきた。


「おとなしくした方が身のためだぞ」

「はァ?!」


佐久早を睨みながら、伊吹は光電子魔法によるレーザー光線を放とうと指先を向ける。しかし佐久早は次の瞬間、急激に魔力を四方に展開した。その意図に気付いた直後、周囲のビル群で一斉に大爆発が発生した。

中央通りを挟むようにして立ちならぶ、東京都庁やホテル、大学などを含む7つの超高層ビルがあちこちで爆発を起こし、ガラスが飛び散り、瓦礫とともに大通りへと落ちていく。
休日である上に最初の戦闘から少し時間が経って避難が進んでいることもあり、このビル街には平時より圧倒的に人が減っているようだったが、それでも西口エリア全体から一斉に悲鳴が上がる。

都庁の二つ並んだ尖塔の根本付近や、正三角形の形をしたビルの中腹、白い私鉄系ホテルの高層部や茶色いセンタービルの下層階など、数フロア分に渡る規模の爆発が連続して発生する轟音が新宿に轟く。
夏の日差しに照らされて、ガラス片と室内の書類が大量に空中を舞って輝いた。爆発したあたりから断線して停電していき、明るい昼間であっても、爆発したフロアとその上下数フロア分の明かりが消えていくのが分かった。
爆発したところからは、吹き飛ばされた室内の人間が悲鳴を上げながら落ちていく。都庁からは、女性が金切り声を発しながら数十階分を落下していた。


「チッ…!自動展開光線貫通術式、」


伊吹は都庁へと勢いよく飛び出しながら、佐久早に対してその周囲数か所から光電子魔法の光線を展開した。自動的に空中から佐久早に何本もの光線が放たれ、それが継続することで、佐久早がシールド兵器に閉じ込められることになる。あの魔力量から考えれば、シールド兵器は余裕で数時間は維持されるだろうが、こちらからも手が出せない。これは佐久早を一か所に閉じ込めることで落下している人々を救出することが目的だった。

周辺のビルの爆発地点から次々と落ちていく人々をそれぞれ独立風気魔法で受け止め、ゆっくりと地上に下ろしていく。
それをちょうど東京都議会上空でコントロールしていると、背後に気配を感じた。


「…なんだよ昼神」

「ほんとにこの世界のために生き続けるつもり?」


どうやら先ほどまでいた中央通りから、孤立空間魔法の板を飛び石のようにしてここまで移動してきたようだ。集中を要する作業をしているため、視線をやらずに答える。


「そう言ってんだろ。俺の味方しねぇなら引っ込んでろ」

「…味方だよ。だから、間違ってるなら気付かせたいとも思う」


その瞬間、伊吹の目の前に人影が現れた。
空中から突然姿を現したのは、なんと古森と百沢だった。昼神の孤立空間魔法の上に乗ったまま迷彩魔法を展開していたようで、昼神が彼らをここへ連れてきたのだと分かる。


「な…ッ!」

「久しぶりだね」

「会いたかったぞ、伊吹」


口ではそんな好意的な口調であるくせに、古森も百沢も戦意をむき出しにしている。そして、百沢は巨体のリーチを生かして伊吹のシールド半径に入り、思い切り蹴り飛ばしてきた。

伊吹はその衝撃を避けきれず、後ろへと吹き飛ばされた。京谷に吹っ飛ばされたときとは非にならない。なんとか、百沢の足が直撃した腹の正面に反作用魔法を展開したが、不完全なそれは百沢の魔力が込められた蹴りに100%対応できず、かなりの威力が内臓を揺らす。

伊吹の体は都議会からふれあい通り上空を猛烈なスピードで飛ばされ、高度を下げながら西口の繁華街を通り過ぎ、やがて新宿駅南口の前に叩きつけられた。6車線の甲州街道の道路にギリギリで受け身の姿勢をとって勢いを殺し、シールド兵器も衝撃を和らげてくれたが、それでも頭と内臓に大きな衝撃が走った。

視界がチカチカとして、三半規管がバグを起こしてくらくらとする。日差しによって熱いアスファルトの上で、姿勢を立て直すこともできないままぐらつく視界を落ち着かせようと目を閉じる。同時に、俯瞰透視に切り換え辺りを警戒する。

そこへ、佐久早の周りに展開する独立光電子魔法に古森のものだろう干渉魔法が展開されるのを感じた伊吹は、悪用される前に消滅させた。
これで現状手札はゼロ、立つことはおろか座ることすらままならず道路で四肢をついて息を切らす伊吹に、徐々に第1魔法科大隊のメンバーと佐久早たちが近づいていた。


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