第三話: The Tokyo's day to burn blue−2


「澤村さん、月島と赤葦、灰羽は洗脳魔法にかかっていて…」

「聞いてる。戦況は司令部から報告を受けてるよ、全員洗脳にかかってたってのもな」


にっこりとして言った澤村は言外に「なにを油断しているんだ」とでも言いたげで、縁下は少し顔を青ざめつつも、地下街で西谷たちが誘導にあたっていることを報告した。


「地下街は誘導を始めています。このまま地上戦で大丈夫ですか」

「やっくんにリエーフを離してもらうわ、さすがに攻撃力が高すぎるからな」


それには黒尾が返した。無線で聞こえていたようで、夜久は遠くで頷くと海に目くばせする。すぐに海は応じて、近くに落ちていた看板を拾い上げると、衝撃魔法とともにリエーフに投げつけた。
リエーフは避けたが、避けた先で夜久が反作用衝撃魔法を展開していたため、看板はその魔法に跳ね返されてリエーフに背後から飛んでくる。それはリエーフのシールドに阻まれたものの、その一瞬だけ視界が塞がれたことで山本が目の前に迫っており、シールドがなくなった瞬間にリエーフを家電量販店前の地下街入り口に蹴り飛ばした。
もろに食らったリエーフは激しく咳き込みながらも地下街へと入っていく。


「山本、犬岡、芝山、海、行くぞ!」


夜久は月島と赤葦を第一小隊と第三小隊に任せ、第七小隊の他のメンバーを率いて地下街へと入っていく。黒尾と弧爪は引き続きここに残る。それだけ、残った二人が強いということで、特に赤葦が厄介だった。日ごろ、敵に回したくない隊員として伊吹に並んで名が上がるのが赤葦だ。


「一回お前とはガチの手合わせしてみたかったんだよな〜!」


こんなときでも調子を崩さないのが木兎だ。笑顔を絶やさずに赤葦を向き合っているが、警戒と、そして心配も滲ませていた。一方の赤葦はいつも通りの冷静な様子で、月島とともに自身に不可視化魔法による迷彩をかけた。
これによって日向たちには月島たちが見えなくなる。この場で彼らが視認できるのは、可視化魔法が使える弧爪だけだ。日向はすぐに弧爪の近くに移動する。


「研磨!見える!?」

「…いや、月島が孤立空間魔法使ってる。月島の孤立空間魔法に赤葦が不可視化魔法を干渉展開して完全に見えなくなってるね」

「……?」


高度過ぎてついていけなかったのは日向だけでなく、木兎も首をかしげていた。それを見ていた澤村は頭を抱え黒尾は苦笑する。


「ツッキーってば、あんだけ俺に生意気な癖に俺が教えた魔法は使えるんだもんなぁ」


そして黒尾は、この月島と赤葦が使っている干渉不可視化孤立空間魔法を自分が教えたと暴露した。日向はそういえば、と思い返す。自主的に訓練するとき、たまに黒尾と木兎、赤葦、月島、日向、リエーフで組むことが何回かあった。そのとき、月島は黒尾たちに煽られながらも訓練になかなか熱心に取り組んでいた。


「クロ、自分で教えたんだから自分で責任取ってよね」

「え〜?おたくの参謀だろ、木兎」

「あいつほんっと器用だなぁ〜!」


まるでいつもの訓練のようだ。それくらい緊張感がないような空気だった。しかし、姿の見えない月島と赤葦に対する警戒は最大限になっていて、その警戒心がピリピリと空気を細かく振動させているかのようだった。
そのとき、突如として衝撃波が日向たちに押し寄せた。正確には弧爪を狙ったものだ。しかし、すかさず鷲尾と猿杙、小見が孤立空間魔法と反作用衝撃魔法によって受け止め、一部を跳ね返す。衝撃波が部分的に及ばなかった空間、そこが月島と赤葦がいるところだろうが、すぐにそこも衝撃波が及び始めたため、移動しているのだと分かる。

それを見ていた澤村は、近くにいる木下に声をかけた。木下は頷くと、突然、広場中央に倒れている木に手をかざす。途端に木の枝が急速に伸び始め、いくつも枝分かれして広場中に広がっていく。木下の制育魔法だ。この魔法は第1魔法科大隊でも木下と矢巾しか使えない。土砂や砕けたアスファルトに覆われた広場の表面がほとんど木の枝によって覆われたが、ある部分だけそれが阻まれる。
孤立空間魔法によって魔法が及ばない領域が発生しているため、広範囲に影響する魔法を使うことで場所を特定する作戦だ。


「そこかァ!!」


木兎はすかさずそこに飛び掛かると、思い切りその空間に向けて魔力を流した。何も見えていないはずなのに、どうやら魔力の流れを肌で感知して逆流させているらしい。世界トップクラスの魔力量を持つイニシャルセブンの木兎による逆流には耐えられなかったようで、月島の孤立空間魔法は忽然と消失した。その隙に、木兎は爆轟魔法を起こして二人まとめて吹き飛ばした。
爆風が吹き付けてきて、日向は手で目元を覆いながら風を避ける。狭い視界に、飛ばされた月島と赤葦が地面に叩きつけられるのが見えた。
月島のところには山口が、赤葦のところには木兎が向かう。


「ツッキー!…澤村さん!ツッキー気絶しました!」

「そうか!」


気絶してしまえば洗脳魔法は自動で解ける。もともと伊吹によって解けかかっていたため、目が覚めれば元に戻っているだろう。
日向はつい、山口と月島のもとへ走り出す。憎まれ口ばかりのヤツではあるが、長い付き合いだ、函館の戦いでもあの混乱をともに乗り越えた。月島の隣でしゃがみ込む幼馴染の隣に座ると、山口は深く息を吐きだしていた。


「よかった…ひどいことにならなくて」


最悪の場合、殺してしまうことだって命令として下されるかもしれなかった。そうなる前に片が付いたことに、山口は安堵から声を震わせていた。


「…月島が悪いわけじゃないもんな。でも起きたら文句言ってやろ!」

「ふっ…うん、そうだね」


山口は薄く笑うと、少し離れた赤葦の方を見遣る。日向もそちらに視線をやると、木兎が赤葦を地面に押さえつけていた。赤葦はまだ意識がある。


「話は聞いてるぞ、赤葦。民間人にかなり犠牲出したんだってな」

「…だからなんです?どうせ、伊吹がVASNAの正しさに気付けば人類全員同じことです」

「何言ってんだお前、伊吹が正しいと思ったことを信じるのが大切にするってことじゃねぇの」


ふとしたときに出る木兎の言葉は、ダイレクトに核心をつく。固唾をのんで見守る周囲のメンバーも息を飲んだ。普段はお調子者の木兎だが、こういうときに、かつてPKOに参加していたほどのエリートで、今も小隊長を張っているのだと実感するのだ。


「お前が洗脳から覚めたとき、多分、お前はめちゃくちゃ自分のこと責めると思う。でもな赤葦、俺は小隊長だからさ、一緒に責任取るよ。だから心配すんな」


そしてそう言って、木兎は赤葦の胸倉をつかんで状態を起こすと、その首の裏に手刀を落とした。赤葦はがくりと意識を失い、地面に倒れる。木兎はそれを静かに見下ろすと、沈黙が落ちた広場に小さな声を響かせる。


「…ごめんな、赤葦」


普段の木兎からは考えられない懺悔の言葉に、全員、唇を噛みしめた。黒煙の上がる新宿の街が、自分たちの罪を示していた。


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