第三話: The Tokyo's day to burn blue−10
崩落した南口を中心に、牛島は佐久早と、溝口は百沢・古森と、直井は大将・広尾・沼井・潜と、南口から離れないようにしながら戦っていた。広範囲での戦闘は民間人を巻き込むためだ。
主に溝口はバスタ新宿で、直井は高島屋で戦っているようで、ひっきりなしに二つの大きな建物が爆発を起こして煙を噴き上げていた。
牛島は伊吹を抱えたままのためハンデがあるかと思われたが、実際には牛島の魔法展開は片手を使うかどうかという程度でノーモーションで可能である上、伊吹がいることでシールド兵器を同期し有効半径が広がり守備範囲が拡大されている。牛島の腕力であれば、ずっと伊吹を抱えていることは悔しいことにハンデにならない。
本当は伊吹も戦いたかったが、どうやらこれまでアドレナリンやらなんやらで体を無理やり動かしていたのか、牛島の腕の中にいるというそれだけで安心してしまい、急激にダメージを感じていた。全身の痛みや、それにともなう発熱、さらに炎天下で戦い続けたことによる熱中症のような症状まで出てきている。なんとか戦況の把握をするのに精いっぱいだった。
牛島も佐久早も、使うのは主に爆轟魔法と衝撃魔法、破砕魔法だ。攻撃特化といった感じだが、牛島は展開速度と純粋な威力、佐久早は指向性コントロールと展開位置の誘導に秀でており、一進一退している。
最初は甲州街道の瓦礫の上で戦っていた二人だったが、佐久早は次第に後ろに移動し、やがて南口の建物内に入った。牛島も追いかけて、1階に半分沈んで傾いている2階部分に突入した。
歪んだ改札機を跨いで構内に入ると、傾いて亀裂が走るタイル張りの床を佐久早が走っていくのが見える。どんな体幹をしているのか、牛島は伊吹を抱えたまま傾いた床を走り出し、カフェから漏れ出ているコーヒーや本屋から散らばった本、落下した案内板などが足元を悪くする中でも少しも転ばずに進んだ。
薄暗い構内から、佐久早は11・12番線の階段を下りてホームへと向かう。階段は途中で崩落しているが、佐久早は風気魔法でジャンプだけしてホームに降りていた。後に続くと、ホームにはオレンジ色の中央線が止まっており、崩落した南口によって車体が押しつぶされてひしゃげていた。
ひしゃげた車体と連結が外れた正常な車体に入った佐久早は、おもむろにその中から光電子魔法を撃ってくる。車体を貫通してこちらに迫る光電子魔法に対して、伊吹と牛島のシールドが作動した。
シールドが消えたときには、佐久早の姿は見えなくなっていた。伊吹がなんとか透視をしてみるが、姿が見当たらない。
「流出した最新の迷彩兵器っすね、追えません」
「そうか」
牛島は短く答えると、すぐに伊吹を抱えたまま反対側の線路に飛び出した。そして、伊吹は辺り一帯に魔法式が展開されたのを感じる。さすがの展開速度で、感じたときにはもうすぐに発動していた。
それは、1番線から14番線まですべてのホームと線路の上から地上に向かって垂直に展開された衝撃魔法だ。とてつもない圧力となって、ホーム全体を上からプレスする。一気に中央線や総武線などの止まっていた車体やホームの天井、自動販売機や柱など様々な金属が歪み破断する甲高く軋む音が周囲に満ちた。南口より北側のホームすべてを衝撃波によって押しつぶしたことで、すべての天井が崩落して電線が切れて線路に散り、駅全体が平たんになってしまった。
「…嘘だろ」
「いたな、あそこだ」
平坦になった中で、一か所だけ不自然に天井が浮いているのを牛島が無感動に見つけた。ゲームの処理バグのようになった部分に佐久早がいる。シールドごと迷彩して隠れているのだろうが、孤立空間魔法は内側からも外が見えないため状況に気付いていないのだろう。
牛島はそこに向けて一気に魔力を流した。途端に佐久早の持っていたシールド兵器も迷彩兵器も耐えきれず破壊され、佐久早が姿を現す。それを待たずに足元の衝撃魔法で飛びだしていた牛島は、すぐに佐久早の目の前に迫った。
しかし佐久早も瞬時に飛び退き、風気魔法で空中に舞い上がる。すぐにそこから南へと南口改札の建物を通り過ぎて向かっていってしまった。
「追い掛けましょう、俺が飛ばします」
「頼む」
さすがにそこまで何もしないわけにはいかない。伊吹は風気魔法を牛島の足元に展開し、コントロールしながら空中に飛んで佐久早を追いかけた。
傾いた駅舎を飛び越えて、崩れた甲州街道と落下した歩道橋を通り過ぎ、黒煙を上げるバスタ新宿も超えると、駅南側のペデストリアンデッキに降り立とうとしている佐久早を見つけた。線路を挟んで、東側には高島屋、西側にはNR本社ビル、北側にはバスタ新宿の甲州街道とは反対側のテラスとを繋ぐもので、高島屋からNR本社へと線路を跨ぐ橋はイーストデッキと呼ばれる。
なぜわざわざシールドもないのに目立つところに、と思った瞬間、眼下のバスタ新宿から急にこちらに飛び出す人影が見えた。その気配に牛島も気づいたが、向こうの方が早かった。
現れたのは古森で、すぐにこれが佐久早を囮にした罠だと気づく。無線で呼びかけたのだろう。