第三話: The Tokyo's day to burn blue−11
咄嗟に、伊吹は牛島の腕を離れて宙を泳ぐ。直後、古森の孤立空間魔法が牛島を閉じ込めた。もし二人とも入っていれば、攻撃モーションに入る古森を止める手段はなかった。
自身の孤立空間魔法の内側に魔法を展開しようとしていた古森と、古森に直列した佐久早の魔力に、思い切り伊吹の魔力を流した。干渉魔法の程度を超えて、普段孤立空間魔法を解くときの魔力すらも超えた、極めて大量の魔力である。
その量の多さに火花が散り、古森は「ぐぁ…ッ!」と呻いて魔法を解いた。牛島が再び姿を見せる。
「牛島さんに手ェ出すな」
思わずそう言っていた伊吹は、苦しむ古森の胸倉を掴んで衝撃魔法を展開し、佐久早のいるイーストデッキに突き飛ばした。目にもとまらぬ速さで飛ばされた古森はイーストデッキに激突し、その衝撃で橋には亀裂が走りタイルが砕け散る。
伊吹は落下を始めた牛島とともに風気魔法を再展開し、二人で佐久早たちの元に降りた。
古森は幅の広い橋の中央に倒れ伏し、佐久早も近くで呻きながら膝をついている。
「何をしたんだ?」
「大量に魔力を流しました。この二人じゃなきゃ、魔力超過で死んでたと思います」
「…すまない、この期に及んで無理をさせた」
「致命傷負ったわけじゃねっすよ、俺は」
そう言ったそばから伊吹はふらついてしまい、牛島に腰を支えられる。牛島に寄りかかりながら二人を見ると、古森は意識を失い、佐久早も朦朧としていた。
そこへ、バスタ新宿から溝口がやってきた。ずるずると百沢をペデストリアンデッキに引きずり、NR本社ビル側からこちらに歩いてくる。
「そっちは片が付いたか」
「はい。古森も意識を失ってます」
「了解」
伊吹が答えると、溝口は百沢を古森の隣に並べる。百沢も気絶しているようで、その長躯を古森の横に力なく投げ出した。
「他がどうなってるか報告ありましたか」
無線を持っていない伊吹が溝口に尋ねると、溝口は頷く。
「東口で月島、赤葦、灰羽の3人が無事に意識を失った。西口でも二口と金田一が大きな怪我もなくダウン。昼神と侑は閉じ込めることに成功していて、直井が大将たちを落とせれば終わりだ」
そう溝口が教えてくれたそのとき、突然、高島屋の建物の中央部、TIMES SQUAREと書かれたガラス張りの壁面の全面が盛大に砕けた。どうやら衝撃波が垂直に伝播したらしく、巨大なガラス張りが一斉に砕け散るのは圧巻だった。大量のガラス片がペデストリアンデッキに散らばっていく中、そこから吹き飛ばされた男が線路に叩きつけられる。あれは沼井だ。
飛ばされた元を見ると、直井がちょうど大将と潜、広尾を風気魔法で浮かせて自身も風に乗って下りてくるところだった。
伊吹も線路に落ちた沼井に風気魔法を起こして浮かせると、イーストデッキに持ち上げる。それを見ながら溝口は北に洗脳解除を報告した。沼井を古森の隣に置いたのと、直井が三人を浮かせて舞い降りてきたのはほぼ同時だった。
「ほとんど同じタイミングだったな」
「さすがに一等陸尉としてのプライドってもんがあるからな」
直井と溝口はそう笑いあうが、本当にその通りで、あれだけ手こずった日本人幹部たちをこうも容易く捕らえるとは思わなかった。
「怪我は平気か」
溝口は伊吹の顔についた血の汚れを優しく拭う。忘れていたが、この二人もイニシャルセブンだ、伊吹に対してこういう扱いをしてくる。
「大丈夫です」とだけ言ってから、伊吹はごまかす様に佐久早に向き直った。朦朧としていたが徐々に意識がはっきりしてきたらしい佐久早は、姿勢を胡坐に片膝を立てるものに変えてじっとこちらを見上げる。
「先に聞きたいことがある。答えるよな?」
「…なんだよ」
一等陸尉四人、そのうち三人はほぼ無傷という状況。佐久早は抵抗せず、また、伊吹のことを三人とも止めなかった。
「お前らは、偶然集まったメンバーか?それとも、何者かの影響を受けたのか?」
「……?」