第三話: The Tokyo's day to burn blue−12
佐久早は質問の意図が分かっておらず、牛島たちも困惑しているのが伝わる。
「どういうことだ伊吹」
牛島はそれをそのまま質問として投げかけてきた。伊吹は佐久早への説明も兼ねて答える。
「ずっとおかしいと思ってました。日本人幹部の初期からの主要メンバーは、もれなく俺と関わりがあった。深圳支部の佐久早と古森、イスタンブール支部の雲南と桐生、パリ支部の大将と広尾…それだけじゃねぇ、本来なら魔法適性は極めて珍しいはずなのに、こいつらだけじゃなく、日向たちみたいな函館で助けたヤツらも、黄金川たち北九州で助けたヤツらも全員、魔法適性があった」
二次入隊組のうち、伊吹が函館で助けた日向、影山、月島、山口、リエーフ、北九州で助けた白馬、黄金川、作並、吹上に魔法適性があったわけだが、これは天文学的確率にもほどがある。最初に国防軍内で10万人以上の志願があったのに、適性があったのはやっと1中隊分だったのだ。
同様に、伊吹が助けたという佐久早たちにも魔法適性があり、さらにVASNAの初期幹部という肩書まで持っている。
「偶然そうなったとは思えねぇっす。日向たちの件は、俺と関わりが見出せないっていう調査結果に国防軍では落ち着きましたけど、今日、洗脳魔法の幅の広さと不透明な実態に改めて思いました」
「つまり、佐久早たちは洗脳されているということか?」
「ただの洗脳であれば俺が魔力を流したことで解けていたはずです。でも佐久早はこうして元のままだ。単なる洗脳魔法とは思えねぇっすね」
「なるほどな…」
考えられるのは、洗脳魔法の亜種だ。爆轟魔法にも、燃焼魔法・爆燃魔法・爆轟魔法というように下位互換が存在する。進化系といってもいい。制育魔法と回復魔法の関係や、冷却魔法と水氷魔法、錬水魔法などもある。洗脳魔法は風気魔法のように独立した存在として学術的には考えられているが、洗脳魔法そのものが謎の多い魔法だ。
こうも伊吹に関係した者たちがVASNAに集まったのも、伊吹が関わった者たちが魔法科大隊に入ったのも、そしてVASNAが伊吹を「主」などと呼ぶことだって、すべて無関係だと考える方が不自然な気がしていたのだ。
テロ事件を起こした佐久早を捕まえた後、伊吹への面会許可が洗脳の恐れなどから降りない可能性があり、次にいつ会えるか分からないため今尋ねた。
佐久早はしばらく考えたあと、顔を背けた。
「…知るか」
低い声を聞いて、つい伊吹は腰を下ろして佐久早と視線を合わせると、その胸元を掴んだ。ぐっと若干首を絞めつけられて、佐久早は少し苦しそうにする。
「もし何者かによる魔法が介在してんなら、必ずしもすべてお前らの罪じゃなくなる!あの戦争さえなければお前らだってこんなことにはならなかったんだ、なのに、こんなことして死刑なんかになったら…!」
「……伊吹には関係ねぇだろ」
「はぁ?!」
伊吹はそんな佐久早の言葉にカチンときて、佐久早の固い腹筋に思い切り拳を入れた。特に魔力などは込めていないが、負傷している佐久早には堪えたようで、呻いて姿勢を屈めようとする。胸倉を掴んだ伊吹によって上体を倒すことができず、佐久早はただ腹を押さえるしかなかった。
「これだけのことを俺を大義名分に起こしておいて関係ねぇって?俺のためっつーなら、お前らに極刑が下ったときの俺の気持ちぐれぇ考えろよ!」
「…っ、お前、俺らが死刑になって気にすんのか」
困惑する佐久早の声を聞いて言葉に詰まる。ぐいっと佐久早の服を一瞬だけ強く掴んでから、腕の力を抜いた。同時に、急に動いたり怒鳴ったりしたためにもともと血が足りていなかったものが頭を揺らし、全身脱力してしまう。そのまま、思わず佐久早の肩に額を乗せて頭を預けてしまった。びくりと佐久早の体が揺れる。